矢野経済研究所の推定によれば、日本のソーシャルレンディング市場は2018年度で約1,700億円です。
新規企業の登場もあり、2019年度の市場規模は2,000億円程度の規模になると予測されています。
では、海外と比較した際に、日本のソーシャルレンディング市場にはどういった違いがあるのでしょうか?
市場を比較してみましょう。
目次
海外におけるソーシャルレンディング市場
海外の中でも、ソーシャルレンディングが資金調達の手段として一般的に使われているのは次のエリアです。
- アメリカ
- ヨーロッパ
- 中国
では、それぞれのエリアにおける市場規模はどの程度なのでしょうか?
それぞれについてみてましょう。
アメリカの市場規模
アメリカのソーシャルレンディング市場の規模は、2014年度の時点で5,500億円ほどありました。
2019年現在の日本の2倍以上もあったということです。
そして、2015年度には2兆5千億円と、1年で5倍に成長しています。
その後の成長を考えれば、2019年現在は10兆円を超えていてもおかしくないでしょう。
2006年にすでソーシャルレンディング会社が誕生していたアメリカですから、その市場の発展速度は日本以上です。
アメリカでは法人向け融資だけではなく、個人間融資も一般的です。
ヨーロッパの市場規模
ソーシャルレンディングは、2005年にイギリスの企業で生まれた金融サービスです。
それだけに、多くの企業や個人の資金調達手段として普及しています。
Crowd Credit(クラウドクレジット)でも、無担保の欧州個人向け融資ファンドを組成しています。
ヨーロッパのソーシャルレンディングの市場規模は、2015年時点で約65億ドル、日本円にして7,000億円ほどとのことです(2019年12月時点のレートで換算)。
こちらも過去のデータですから、2019年時点では10兆円ほどに成長している可能性があります。
中国の市場規模
目覚ましい経済発展をとげている中国。
その一方で、企業に対する国の規制が厳しく、資金調達手段に乏しい国でもあります。
そんな中国では、金融機関からの資金調達が難しいこともあり、ソーシャルレンディング会社の需要が高まっています。
中国における市場規模は、2019年の単月で約1兆6千億円です。
つまり、年間に換算すれば20兆円とも言える非常に巨大なマーケットです。
これでも、政府の規制によりその金額は減少しつつあります。
2019年度の市場規模は、2018年度より縮小するものと見られています。
海外と比較した際の日本のソーシャルレンディング市場の特徴
ソーシャルレンディングの市場規模の違いだけではなく、融資対象や融資案件の内容も海外と日本では異なります。
海外と比較しながら、日本のソーシャルレンディング市場の特徴を確認してみましょう。
特徴①:法人向け融資案件が中心
日本のソーシャルレンディング市場は、法人向け融資案件が中心です。
過去には日本でもmaneo(マネオ)や SBI ソーシャルレンディングなど、古参のソーシャルレンディング会社では個人向け融資案件を多く扱っていました。
しかし、個人向け融資案件は次のような理由から敬遠され、今ではほぼすべてのソーシャルレンディングサイトで扱わなくなっています。
- 貸し倒れが起きやすい
- 換金性の高い担保が設定されない
個人向け融資案件を専門に取り扱っていたAQUSHというソーシャルレンディングサイトは、2019年12月現在活動を停止しています。
一方で、アメリカやヨーロッパでは、個人向け融資案件は数多く見られます。
では、日本でなぜ個人向け融資案件がそれほど流行らなかったのでしょうか?
それは、信用力の問題だけではなく、日本はカードローンという個人でも利用しやすい資金調達手段が用意されているからです。
金融機関やノンバンクが提供しているカードローンは、少ない金額であれば低い金利で融資を受けることができます。
また、その手順も簡素化されており、スピーディーな資金調達が可能です。
個人の信用力にもよりますが、高い金利で良いのであれば、数百万から数千万円ほどの融資を受けることは難しくありません。
ソーシャルレンディングに比べると参入企業が多く歴史があるため、知名度・信用性ともに高いです。
急にお金を必要とする人にとって、カードローンによる資金調達は非常に目に付きやすく、安心して利用できるものなのです。
つまり、個人向けソーシャルレンディングは、借り手(資金調達側)からすると使いにくいものなのです。
そのこともあってか、2019年時点でほぼ消滅状態にあるのです。
特徴②:不動産案件に人気が集中している
日本のソーシャルレンディング業界は不動産案件の数が多く、投資家の間で人気が集中しています。
その理由としては、次の2つの理由が考えられるでしょう。
- 担保に不動産を設定できるため貸し倒れ時のリスクが低い
- 日本で現在不動産市場が活況である
SBIソーシャルレンディングでは、 常時募集案件として 不動産担保ローンの事業者向け資金の案件を提供しています。
この実情は、不動産担保付きソーシャルレンディング案件の一種です。
もう一つの柱として太陽光発電事業者向け案件がありますが、太陽光案件は今後国による買取制度が消滅することにより、徐々に件数が減っていくことが予想されます。
そのため、不動産案件はまだまだ投資家の信用を獲得しているのでしょう。
2019年現在、日本は都心部を中心に不動産価格が上昇しており、不動産を購入してリノベーションなどを施せば、購入時より高い価格で転売することが比較的容易にできます。
そのため、不動産開発事業者にとっては高金利で資金を調達しても、短期で返済しやすいソーシャルレンディングは、非常に使い勝手が良いのです。
不動産担保ローンよりもソーシャルレンディングは審査が早く、返済時の違約金もありません。
それだけに、借り手の不動産会社側には大きなメリットがあるのです。
海外でも、不動産関係の案件は人気があります。
ただし、不動産以外の案件であっても、融資先の信用性を担保にしていたり、個人間融資の場合は小口融資を一つが案件として組成されていたり、融資先を分散することでリスク対策が取られています。
一方、日本で複数の小口融資を一つの案件として組成し提供しているのはクラウドクレジットくらいです。
クラウドクレジットは国外専門の案件ですから、国内向けの融資案件では皆無です。
日本のソーシャルレンディング業界が発展するために必要な4要素
日本のソーシャルレンディング市場は、2019年度の予測が約2,000億円です。
他の投資市場の規模を見ると、例えばREIT(不動産投資信託)は17兆円と、ソーシャルレンディングの100倍もあります。
つまり、日本のソーシャルレンディング市場はまだまだ小さく、発展の可能性も残されています。
では、今後日本のソーシャルレンディング市場が成長するには何が必要でしょうか?
成長に必要だと考えられるものには4つの要素があります。
要素①:個人間融資を仲介する会社の登場
個人間融資の信用性が低く、また一案件あたりの規模が多いといっても、資金を必要とする個人はまだまだ多いはずです。
そして、新しい投資先を探している個人投資家も潜在的には多いでしょう。
結局のところ、個人間融資を仲介してくれる会社がないため、個人向けの融資が消えたとも言えます。
インターネット上だけで手軽の個人間融資を仲介してくれる会社が現れれば、個人間融資案件がもっと増え、日本のソーシャルレンディング市場は拡大していくことでしょう。
要素②:多様な業界への融資案件の登場
現在、日本のソーシャルレンディングは不動産案件が中心です。
しかし、仮に不動産市場が不況に陥れば、不動産案件も一気に減少する可能性があります。
そうすれば、日本のソーシャルレンディング業界は大きなダメージを受けるでしょう。
また、貸し倒れや返済遅延、不動産価値の下落などの要因で投資家も大きな損失を被ることも間違いありません。
そのため、不動産業界以外の業界への事業資金融資案件の登場が待たれます。
個人が一部上場企業といった信用力のある会社に融資できれば、金利が低くても社債を購入するような感覚で気軽に投資できるようになるでしょう。
2019年現在、Funds(ファンズ)がこういった仕組みづくりに取り組んでいます。
Fundsに追随する会社が増える、もしくはFundsの案件が増えれば、一気に市場が拡大する可能性があります。
要素③:知名度の上昇と健全な投資先としての浸透
ソーシャルレンディング市場の拡大に最も重要だと考えられるものは、ソーシャルレンディングの認知度の向上と健全な投資先として浸透です。
残念ながら、2017年から2018年の各ソーシャルレンディング会社への行政処分で、日本のソーシャルレンディング業界は大きく信用を失いました(この考察については一番下にリンクがあります)。
特に、募集内容の虚偽や集めた資金を別の用途に利用していた会社があり、詐欺的な行為を行った会社は、2019年現在投資家から訴訟を受けています。
損失を被った個人投資家は、二度とソーシャルレンディングに投資をしないと考えてもおかしくはありません。
一方で、2019年に入り「匿名化解除」でソーシャルレンディングの融資先の公開が行われるようになりました。
それに追随する情報の開示がどんどん進んでいます。
融資先の信用性と案件の事業内容を個人が詳細に確認できるようになれば、そこで損失が起きても、株式投資やFXでの損失と同じように、自己責任だと納得できるようになるでしょう。
健全な投資手法として認知されるよう、ソーシャルレンディング会社が力を合わせ、業界を挙げて広報活動を行うことが望まれます。
そして、「ソーシャルレンディング」ということばが一般の投資家に多く認知されるようになれば、市場規模は大きく拡大することでしょう。
要素④:分離課税制度の導入
税制面では、ソーシャルレンディングの利益は「雑所得」に該当します。
そのため、最大税率は住民税、所得税合わせて55パーセントにもなってしまいます。
一方で、株式投資やFXの利益には分離課税制度が導入され、税率は20.315パーセントです。
税制面での優遇が行われれば、ソーシャルレンディング投資を行う人にとっては追い風になります。
海外のソーシャルレンディング市場を踏まえた日本市場の展望
個人間向け融資が今後日本のソーシャルレンディング業界で活性化するのかと言うと、それは正直なところなかなか難しいかもしれません。
個人間向け融資はトラブルが発生しやすく、また一案件あたりの金額が小さいため、金利を高く設定しないと仲介に入る会社のメリットは小さいからです。
また、カードローンがあるため、借り手側にとってソーシャルレンディングの利便性が高くならないと、利用される理由がないのです。
一つのベンチャー企業が取り組むには難易度の高いビジネスであり、多くの人員を有する金融機関やノンバンクが乗り出さない限り、個人間融資の発展の可能性は低いでしょう。
それよりも日本のソーシャルレンディング市場が飛躍的に拡大するために必要なことは、個人が有名企業に気軽に融資を行えるサイトの登場だと考えられます。
誰もが知る有名企業への融資であれば、ソーシャルレンディング投資家と株を買うのと同じような感覚で投資できるでしょう。
また「ソーシャルレンディングという投資はこんな大企業友つながりがあり、投資できる」という知名度や認知度を高めるためのアピールにも繋がります。
また、企業が個人から資金を調達することが海外のように当たり前になれば、「あの会社はお金がないからクラウドファンディングを使って個人からお金を集めている」と痛くもない腹を探られる心配がなくなります。
そういう意味では、Fundsの取り組むモデルの可能性は大きなものがありますし、同様の仕組みを持つソーシャルレンディング会社が出現すれば、相乗効果で一気にソーシャルレンディング市場は拡大することでしょう。
例えば、Fundsやそれに類するソーシャルレンディングサイトが、ソフトバンクの資金調達手段として利用されるようになったとしましょう。
金利3パーセント、融資期間2年間、募集規模が10億円という案件があったら、これはすぐに10億円が集まるのではないでしょうか?
10億円どころか、100億円だって簡単に集められるかもしれません。
ソフトバンクに限らず、ヤフーであったり、ソニーであったり、著名な企業への融資案件であれば安心して投資できる投資家は多いはずです。
日本のソーシャルレンディング会社には、そういった有名企業とのコラボレーションやタッグを望みたいところです。
まとめ
日本のソーシャルレンディング市場は徐々に成長しつつありますが、海外と比べればその規模は非常に小さいです。
個人間向け投資手法として、一般的に利用されているとは言いがたい状況です。
その発展のためには、ソーシャルレンディングということばの認知度上昇、安全性や利回りの確保だけではなく、貸付先が無名企業ではなく有名企業となることが必要なのではないでしょうか?
有名企業案件が増えれば「ソーシャルレンディングってなに?」から「ソーシャルレンディングなら簡単!」「ソーシャルレンディングなら高利回り!」という良いイメージを持たれるようになり、個人が手軽に利用できる投資手法になるはずです。
クラウドアンサー編集部では、ソーシャルレンディングの変遷について独自の見解で分析しています。
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