クラウドアンサー編集部では、ソーシャルレンディングサイトを運営する会社へのインタビューを実施しています。
2020年2月には、社会的インパクト投資の案件を専門とする「ネクストシフトファンド」を運営するネクストシフト株式会社へのインタビューを実施しました。
ネクストシフトファンドは2018年にサービスを開始し、着実に実績を積み重ねています。
運営元のネクストシフト株式会社は、本社が鳥取県にあるという特徴があります。
このインタビューでは、ネクストシフトファンドの目指すものや投資家の方に伝えたいことを中心にインタビューを実施。
ネクストシフトファンドが考える「社会的インパクト投資」について深く伺いました。
なお、インタビューはネクストシフト株式会社代表取締役社長 伊藤 慎佐仁様にご対応いただきました。
目次
- ネクストシフト株式会社について
- ソーシャルレンディング事業に乗り出した経緯
- ネクストシフトファンドについて
- ネクストシフトファンドの最大の特徴はどういった点だとお考えでしょうか?
- ソーシャルレンディング事業に進出する際はどんな点に留意しましたでしょうか?
- 海外だけでなく日本国内でインパクト投資案件を作ることはできないのでしょうか?
- マイクロファイナンス機関の案件の組成はどのようなスキームで行っていますか?
- 海外案件ならではの難しさや苦労などがあれば教えてください。
- 投資家保護のための取り組みはどのようなことを行っていますでしょうか?
- 投資家からは「こうして欲しい」といった要望をもらうことはありますでしょうか?
- 募集実績は2年弱で1億4千万円ですがどのように捉えていらっしゃいますか?
- 今最も注力しているのはどのようなことでしょうか?
- ソーシャルレンディングとネクストシフトファンドの今後
- まとめ
ネクストシフト株式会社について
ネクストシフトファンドを運営するネクストシフト株式会社は、日本のソーシャルレンディング会社の中でも珍しい、東京以外の場所に本社を構える会社です。
まずは概要を確認しておきましょう。
会社名 | ネクストシフト株式会社 |
設立年月日 | 2016年10月7日 |
所在地 | 鳥取県八頭郡八頭町見槻中154-2隼Lab.2F |
代表取締役 | 伊藤慎佐仁 |
資本金 | 3億9,870万円(資本準備金を含む) |
株主 | 経営陣 株式会社鳥取銀行 株式会社山陰放送 とっとり地方創生ファンド投資事業有限責任組合 谷家衛 他 |
ベンチャー企業ながら、地方銀行(鳥取銀行)が株主となっています。
その点を見ると、ネクストシフト株式会社は金融機関から高い評価を受ける事業を展開していると考えられます。
本社を鳥取に構えている理由はありますでしょうか?
私の出身地が鳥取県であることが大きいです。
鳥取県は日本でも一番人口が少ない県であり、2020年現在人口は減少しています。
ですから、地方創生を行い地元に恩返しをしたいという気持ちがありました。
そこで、まずは鳥取の地方創生に関わる会社を起ち上げたいと思い、ネクストシフト株式会社を2016年に設立しました。
ネクストシフトでは起業家のために経営塾を主催したり、小学校を改装したコワーキングスペースの運営を行ったりもしています。
そんな中で、ソーシャルレンディングサイトの運営にも乗り出しました。
株主には鳥取銀行や山陰放送といった大きな会社がいらっしゃるのですね。
ネクストシフトを立ち上げる際に、株式会社鳥取銀行に相談したところ、「鳥取で地方創生をしたい」という私の志にご賛同いただくことができました。
高齢化社会や若者の減少という局面で鳥取の産業を活性化させるには、「鳥取でも仕事ができる」「仕事がある」ということをアピールする必要があります。
そういったことをネクストシフトでは行っていきたいと話しました。
その結果、ベンチャー企業にもかかわらず事業性を評価いただき、株主になっていただけました。
伊藤社長が社会的インパクト投資に興味を持ったきっかけを教えてください。
元々、私は学生時代に国際的な学生組織であるNPO法人「アイセック・ジャパン」に参加していました。
「国の垣根を超えた経済活動は、個人の利益だけではなく人の生活そのものを良くする力がある」そのときにそんなことを学びました。
その後、金融の世界に入りバブル崩壊、銀行の中小企業に対する貸し剥がし、リーマンショックなどを経験してきて、金融の世界が社会的にネガティブなものに捉えられている印象を受けました。
とても残念に感じていたのですが、そんな中、2008年にバングラディシュのグラミン銀行のユヌスさんの本を読む機会があり、そこでマイクロファイナンス機関のことを知りました。
マイクロファイナンス機関は、大手の銀行からは資金調達が難しい個人事業主や農家などに対して、運転資金や設備投資のための資金融資する金融機関です。
マイクロファイナンス機関の業務内容に共感を持ち、カンボジアで当社の現取締役である永野(雄太氏)と出会いました。
永野から話を聞いた後に、マイクロファイナンス機関を支援したいと思うようになったことがきっかけです。
ソーシャルレンディング事業に乗り出した経緯
伊藤社長は、学生時代から金融を通じて多くの人の生活を良くすることに興味を持っていらっしゃいました。
マイクロファイナンスという金融機関を知り、ソーシャルレンディング事業を起ち上げるまでにはどんな経緯があったのでしょうか?
ソーシャルレンディングに着目された理由を教えてください。
金融業界で働いていたこともあり、ソーシャルレンディングの存在は日本でソーシャルレンディングが広まる以前から知っていました。
ただし、海外のソーシャルレンディングは今の日本のソーシャルレンディングとは異なり、投資したい個人と融資を受けたい個人に関係する案件が多いです。
それも、ソーシャルレンディングの形であると思っています。
ですから、個人から集めたお金を法人に融資する日本のソーシャルレンディングのスキームに、私はこだわっていません。
個人間融資のファンドがもっとあっても良いと思っています。
個人が投資によって適切な利回りを獲得することができ、また、資金が必要な個人が融資を手軽に受けられて経済活動が促進される。
ソーシャルレンディングは、そのように社会の役に立つ投資であることこそが重要だと思っています。
ソーシャルレンディング事業進出までに困難だったことはありますでしょうか?
第二種金融商品取引業の登録です。
ネクストシフトファンドは2018年4月にサイトを開設しましたが、その前後で行政処分を受けるソーシャルレンディング会社が複数ありました。
ちょうど金融庁の第二種金融商品取引業に関する審査が非常に厳しいものになった時期ですから、事業開始までは想定以上に時間が掛かりました。
ただし、結果的にこれで良かったと思っています。
時間がかかったことが結果的に良いと言える理由についてもう少し詳しく教えてください。
2018年前後は、利回り10パーセント以上のソーシャルレンディング案件が当たり前のようにありました。
しかし、利回りが高いということは返済リスクが高いということですし、この低金利の日本で10パーセント以上の金利で借りる会社が常にいるということは不自然です。
2020年現在はそういった案件が減り、ソーシャルレンディング投資の利回りが適切なものになったと思っています。
融資先の匿名化解除後ソーシャルレンディングを取り巻く環境は変わったと感じますでしょうか?
数々の融資の債権が焦げ付いたのは、ソーシャルレンディングの金融商品としての問題ではなく、各案件の条件などに関するガバナンスの問題です。
そこで、私たちはソーシャルレンディングの信頼を回復するために全案件で融資先を公開し、情報開示に率先して取り組みました。
他社さんでも同じ流れが生まれ、金融商品としてソーシャルレンディングが徐々に定着しつつある印象を受けています。
ネクストシフトファンドについて
出典:ネクストシフトファンド
今後、ネクストシフトファンドがどのような案件を投資家に提供していくのか、またどんな拡大戦略を取るのか気になる投資家の方は多いでしょう。
そこで、ネクストシフトファンドの今後の方向性について伺いました。
ネクストシフトファンドの最大の特徴はどういった点だとお考えでしょうか?
社会的インパクト投資に特化していることです。
その中でも、比較的安全性の高いマイクロファイナンス機関への融資を中心としています。
投資家の方のメリットは、利回りが5パーセントから7パーセントと高い点です。
また、融資を受けた農家がその後どうなったのかなど事業の事後報告を行っているため、社会に貢献していることを実感できます。
投資したお金が誰かの役に立つということは、ネクストシフトファンドで投資する大きな魅力だと思っています。
ソーシャルレンディング事業に進出する際はどんな点に留意しましたでしょうか?
まずは、米ドル建てで運用することです。
現地の国の通貨はボラティリティが高いためリスクがあります。
米ドル建てで運用することで、安定性を持たせることができます。
また、運用期間は1年前後が最も良いとの判断でそのようにしています。
あまりにも短期だと、投資家の方にとって不利になります。
例えば、手数料が頻繁に発生したり、投資効率が下がったりします。
かといって、ソーシャルレンディング投資自体には流動性がないため、長期の案件はリスクが高まります。
投資家の方が安心して投資できる環境や条件の整備は、日々研究を重ねています。
海外だけでなく日本国内でインパクト投資案件を作ることはできないのでしょうか?
日本でも決して不可能ではありませんが、どちらかと言えば日本ではベンチャーキャピタルがマイクロファイナンス機関のような役割を担っています。
また、日本国内の融資案件は高い金利を設定しにくいため、投資家の方に満足な収益を提供できるとは限りません。
一方で、一度でも金融機関と取引ができれば、マイクロファイナンス機関の案件は比較的手続きが少なく、安定した案件の供給が可能です。
2020年2月現在、3ヶ国4社への融資案件を組成していますが、もっと国を増やせると思っています。
マイクロファイナンス機関の案件の組成はどのようなスキームで行っていますか?
現地での紹介がきっかけです。
融資先の金融機関には実際に会って話をしていますし、最終的な借り手である小口事業者や個人事業主の方にも、可能な限りお会いしています。
そういった活動の状況は、ネクストシフトファンド内のレポートにも掲載しています。
海外案件ならではの難しさや苦労などがあれば教えてください。
当初は文化的、言語的な難しさや苦労が多少ありましたが、ノウハウの蓄積などにより今では軽減されました。
現状の課題は、お金がどう使われて役立っているかを投資家の方々に向けてもっと可視化することです。
実現するためには現地赴いてインタビューや撮影を行う必要があるため、多くのコストが発生します。
しかし、私達の理念に照らし合わせれば、情報開示は絶対に必要だと考えています。
そのコストをどう捻出し抑えていくのか、それが海外案件の大きな課題です。
投資家保護のための取り組みはどのようなことを行っていますでしょうか?
可能な限り情報を開示することと、投資家のみなさまからお預かりした資金の分別管理を行うことです。
返済リスクを抑えるために融資先のモニタリングをしっかり行っていますし、融資先である各マイクロファイナンス機関とも定期的に連絡を取っています。
投資家からは「こうして欲しい」といった要望をもらうことはありますでしょうか?
リスクの軽減のために為替ヘッジを設定して欲しいというご意見は頂戴しており、導入を検討中です。
また、「現地に行って借り手の方たちに実際に会って話をするツアーがあったら嬉しい」という投資家の方からのご要望もありました。
このように、投資家の方が自分の投資したお金がどう使われているのかを実感できるような取り組みを行っていきたいと考えています。
募集実績は2年弱で1億4千万円ですがどのように捉えていらっしゃいますか?
まだまだ成長の余地があると思っています。
ここ数ヶ月は月間募集金額が2,000万円と成長していますし、投資家の数は1,000人を突破しました。
投資家の方々の期待を裏切らないためにも、次は月間で数億円規模の募集に成長させたいと思っています。
今最も注力しているのはどのようなことでしょうか?
当社の案件の募集が、魅力的かつ保全性の高いものと知ってもらうことです。
私たちはマイクロファイナンス機関への投資案件が中心であるため、保証や担保はありません。
そのため、投資家の方にはリスクが高いと思われている可能性があります。
その印象を払拭するために、積極的に情報を発信しています。
ネクストシフトファンドの融資先であるマイクロファイナンス機関から実際に借入をしている個人のことを紹介していますし、現地での運用状況の報告も行っています。
マイクロファイナンス機関への融資は安定性が高いこと、また途上国であっても場合によっては実質的なカントリーリスクは低いことを伝えていく必要があると考えています。
ソーシャルレンディングとネクストシフトファンドの今後
伊藤社長が考える「社会的インパクト投資」を実現するためには、ネクストシフトファンドは今後どこまでの成長を目指すのでしょうか?
また、ソーシャルレンディングという投資について、伊藤社長が考える課題についても聞いてみました。
会員数、案件供給数、募集金額などの数値目標を教えてください。
直近の目標ではありませんが、2030年には募集実績1兆円にしたいです。
そのポテンシャルはあると思っています。
まず、海外の社会的インパクト投資市場は、現在25兆円規模と言われています。
日本国内が3,000億円から3,500億円ですから、大雑把に言うと日本国内の規模の100倍近くです。
一方で、日本の個人資産は約1,900兆円あります。
そのうちで、いわゆる資産運用に向けられているお金は300兆円規模との統計があります。
つまり、それだけソーシャルレンディングや社会的インパクト投資という投資には成長の余地がまだまだあるということ。
当社だけでも募集実績1兆円を目指すことは、決して無理ではないと考えています。
提供する案件の国・事業内容など今後の予定はありますか?
地理や文化的な関係で案件を作りやすい東南アジア、中央アジアを増やしていく予定です。
いずれはアフリカなどにも進出し、今以上にグローバルな展開を行いたいと考えています。
日本のソーシャルレンディング業界の発展にはなにが必要だとお考えでしょうか?
ソーシャルレンディングという投資商品を、業界をあげてもっと認知を高めることだと思っています。
私がかつて社長を務めていたネット証券会社では、「ネット証券」という投資方法を広めるために複数の会社でイベントを共催していました。
「競合するソーシャルレンディング会社同士でうまくできるのか?」という話もありますが、まずはソーシャルレンディング自体の知名度を上げ、その中で各社がオリジナリティを出していけばうまく差別化できると思っています。
そして、ソーシャルレンディングという投資のロビイング、また自主規制について取り組む業界団体を作る必要性も感じています。
投資家の方にお伝えしたいメッセージがあればお願いします。
数ある投資ポートフォリオの一つとして、ネクストシフトファンドへの投資をご検討いただけましたら幸いです。
私たちは投資家の方々に十分な利益を提供できる自信がありますし、その中で社会貢献も可能です。
もちろん、ネクストシフトファンドだけではなく、多様な会社に投資する中で選択肢の一つとしてぜひご活用いただきたいです。
まとめ
ネクストシフト株式会社のインタビュー内容についてお伝えしました。
「金融を通じて多くの人を幸せにしたい」という伊藤社長の「社会的インパクト投資」に込めた思いが強く伝わってきました。
これだけの信念を持ってネクストシフトファンドの運営に取り組んでいるからこそ、徐々にその取り組みが投資家から評価されつつあります。
「もちろん、途上国の発展に貢献するとともに、投資家に対して適切な利益を提供してこそ意味がある」と伊藤社長は語ります。
マイクロファイナンス機関への融資はリスクが高いものではなく、手堅い投資先であることをもっと知って欲しいとのことです。
ソーシャルレンディングのリスク対策として分散投資は重要です。
分散投資のポートフォリオの一環として、ネクストシフトファンドで途上国のマイクロファイナンス機関への投資を検討してみてはいかがでしょうか?