「財形貯蓄」ということばを聞いたことがあるでしょうか?
あまり一般的なことばではないかもしれませんが、中規模から大規模の企業に勤めている方にとっては、馴染みのあることばかもしれません。
本記事では、「財形貯蓄」というのがどういう制度で、どんなメリットやデメリットがあるのか、また財形貯蓄がどんな人に向いているのかについても解説していきます。
筆者プロフィール
実際に説明に入る前に、筆者自身にについて紹介します。
筆者は、税理士事務所に約3年間勤務していたことのあるFP(ファイナンシャルプランナー)で、主に社会保険関係や税金関係を専門にしています。
投資についても学生時代から経験があり、金融資産運用についても勉強と実践を重ねています。
財形貯蓄とは
まずは、財形貯蓄がどのような制度なのかについて概要を説明していきます。
財形貯蓄とは、会社が導入する制度の一つで、会社員の給与から一定額を天引きして積み立てる制度のことを指します。
天引きされた給与は、会社が提携している金融機関に積み立てられ、目的に応じて引き出しも可能なものです。
多くの会社員にとっては、会社からもらった給料はすべて「すぐに使用可能なお金」として口座に入金されます。
そのため、なかなか貯金するとなると難しく感じられる方も多いのではないでしょうか?
そういった方が、ある目的のために貯蓄をする場合、財形貯蓄が役に立ちます。
財形貯蓄の種類
財形貯蓄で区分される種類は、貯蓄の目的に応じて、大きく分けて3つあります。
いずれも将来に向けての資金作り、資産形成を最終的な目標としています。
それぞれについて詳しく解説していきましょう。
- 一般財形貯蓄
- 財形住宅貯蓄
- 財形年金貯蓄
一般財形貯蓄
一般財形貯蓄には、特定の目的は必要ありません。
勤務先の会社が財形貯蓄制度を採用していれば、誰でも利用することができます。
目的が自由であるぶん、目的を定めた財形貯蓄で受けられるような非課税制度の恩恵を受けることができないことが特徴です。
財形貯蓄は契約の一つですが、一般財形貯蓄は一人何契約でもすることができます。
逆に、この後解説する「財形住宅貯蓄」や「財形年金貯蓄」は一人一契約に限定されています。
一般財形貯蓄は、例えば、結婚や出産、子供の学費など、将来的に必要になりそうな出費に備えた財形貯蓄をすることもできますし、怪我や病気などによる急な出費に備えることも可能となります。
積立期間は原則3年以上で給与天引きで定期的に積み立てる必要がありますが、引き出し自体は1年経過すれば可能です。
財形住宅貯蓄
財形住宅貯蓄は一般財形貯蓄とは異なり、貯蓄目的に一定の制限がある財形貯蓄です。
貯蓄目的は、住宅の購入や建設、リフォームに限定されます。
一般的に多額の貯蓄となることから年齢による制限も存在し、満55歳未満の勤労者でないと財形住宅貯蓄を利用できません。
このように制限がある分、税制的な恩恵があります。
財形住宅貯蓄には、元本550万円分までの利息に対し所得税が非課税になる制度があります。
一般的に、私たちが預金などから受け取る利息は、銀行によって所得税が控除され(これを源泉徴収と呼びます)、残りの分が利息として増額します。
しかし、財形住宅貯蓄を利用している場合は、550万円分までは所得税がかからないため、単に普通預金にお金を預けていたり、一般財形貯蓄を利用した上で得られる利息よりも多くなります。
財形住宅貯蓄は、貯蓄目的に制限がありますが、目的外の急な出費などの際にも引き出すことは可能です。
ただし、この際には税制優遇が解除になってしまい、通常通り所得税が源泉徴収されるため注意が必要です。
財形年金貯蓄
財形年金貯蓄も、財形住宅貯蓄と同じように、一定の目的のために貯蓄をする場合に利用される財形貯蓄となります。
財形年金貯蓄は、老後の私的年金として積み立てておくような目的で利用されます。
昨今、老後に受け取れる年金額に対する不安が急増しており、iDeCo(個人型確定拠出年金)の対象者の拡大を筆頭に、老後資金を自分自身の力で用意する動きが高まっています。
財形年金貯蓄も、老後の資金対策の一つということができます。
財形年金貯蓄も、目的が決まっているぶん、財形住宅貯蓄と同様に元本550万円分まで利息が非課税となります。
しかし、財形住宅貯蓄と併用している場合、元本は合算額となります。
そのため、両方合わせた元本が550万円を超えた場合、超えた分についての利息は通常通り所得税の源泉徴収が行われる点に注意が必要です。
年齢制限についても、年金と積立期間の性質上満55歳未満でないと利用できません。
通常は、年金は65歳から受給可能です(繰り上げ受給によって60歳から受給は可能ですが、年金額が大きく減少します)が、財形年金貯蓄は60歳から受給可能です。
したがって、60歳で収入額が大きく減る予定がある場合などには、その期間の収入を補うための手段として利用することができます。
財形貯蓄のメリット
財形貯蓄は、将来のさまざまな目的に備えたり、急な出費に備えたりするために有用な方法です。
ここでは改めて、財形貯蓄のメリットについてまとめて説明していきましょう。
- 給与天引きのため自動的に貯蓄できる
- 目的に合わせて資産形成ができる
- 税制優遇がある
- 住宅融資を受けることができる
- 目的外の急な出費にも対応できる
- リスクが低い
メリット①:給与天引きのため自動的に貯蓄できる
財形貯蓄は、その制度の性質上、給与から直接天引きされる形です。
そのため、半強制的に貯蓄をすることができ、無駄遣いを未然に防ぐことができます。
毎月の手取り給与の金額は下がりますが、そのぶん利息も含めて将来の自分に返ってくるため、将来的な不安は軽減されるでしょう。
メリット②:目的に合わせて資産形成ができる
先ほど解説したように、財形貯蓄には目的に応じた3つの種類があります。
これらの目的に応じて、財形貯蓄の種類を選ぶことができるのもメリットの一つと言うことができます。
受け取り方もある程度自分の裁量で決めることができ、融通が効く点も使いやすいポイントです。
メリット③:税制優遇がある
財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄には、元金550万円分までの税制優遇があります。
一般的に、利息に対して約20%の所得税が課税されており、これらは利息に対して予め控除されるため、実際に通帳に印字される利息の金額は、この20%の所得税が引かれた後の金額となっています。
財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄の場合、元金550万円分までなら、この利息に対する所得税が非課税となり、利息を満額分受け取ることができます。
つまり、今まで受け取っていた利息に20%増額されるような形となります。
メリット④:住宅融資を受けることができる
財形貯蓄を利用していれば、住宅融資を受けることができます。
これは、一般財形貯蓄であっても適用されます。
適用条件は下記の通りです。
適用条件 |
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住宅融資を受ける場合、財形貯蓄残高の10倍の金額まで融資を受けることができますが、融資は最大4,000万円で住宅購入価格の80%までという上限があります。
通常の住宅ローンと同程度の金利で貯蓄をしつつ融資ができる財形貯蓄ならではの制度となっています。
メリット⑤:目的外の急な出費にも対応できる
財形貯蓄は、目的に応じて定期的に貯蓄をしていくことになりますが、急を要する出費があった場合に、ある程度融通を効かせることが可能です。
財形貯蓄は、1年以上継続している場合は残高の引き出しをすることができます。
財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄の場合は、税制優遇が解除になり利息に対して課税がされてしまいますが、困ったときに引き出せるという保険的な使い方をすることができるということです。
財形貯蓄とiDeCo(個人型確定拠出年金)はよく比較対象となりますが、iDeCoは基本的に中途解約ができない制度です。
そのため、急な出費に対しては財形貯蓄に軍配が上がります。
メリット⑥:リスクが低い
財形貯蓄を投資として考えた場合、利息額は基本的に定期預金と同じような利率であるため、非常にリスクが低い投資方法です。
これは、投資リターンが低いことの裏返しにはなりますが、そのぶん安定性の高い資産としての保有が可能ということです。
将来のための資金をある程度自由に使えない形で貯蓄したいという方にとっては、とても有効な方法ということができます。
財形貯蓄のデメリット
財形貯蓄は安定性の高い資産管理方法ではありますが、デメリットももちろん存在します。
ここではデメリットについて解説していきましょう。
- 利用できる人が少ない
- 税制優遇の恩恵が限定的
- 拠出金の所得控除ができない
- 途中での用途変更ができない
- リターンが低い
- 解約・引き出しで税制優遇が受けられない場合がある
デメリット①:利用できる人が少ない
そもそも、財形貯蓄を利用できる人が少ないという点があります。
第一段階として、財形貯蓄は勤め先の企業が制度を導入している必要があります。
大企業であればともかく、中小企業で財形貯蓄制度を導入しているところはそんなになく、財形貯蓄を利用したくてもできない人もいることでしょう。
この場合、別の貯蓄方法を考えなくてはなりません。
デメリット②:税制優遇の恩恵が限定的
財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄に適用される税制優遇は、元金550万円に対して適用されます。
そのため、金利の低い現在においては税制優遇の恩恵が極めて限定的だということができます。
具体例を取り上げて説明しましょう。
例えば、現在の定期預金の金利を0.01%とした場合、元金550万円に対して利息は550円しか付きません。
通常の定期預金であれば、ここから源泉所得税20%が引かれ、手取り分は440円となりますが、税制優遇の恩恵として550円を満額分得ることができます。
これが仮に金利1%だった場合、元金550万円に対して利息が55,000円つくことになります。
この利息に対しての源泉所得税20%が引かれた手取りは44,000円となりますが、税制優遇の恩恵として、55,000円を満額分得ることができます。
上記のことから、金利の高い時期においてはメリットともなり得るのですが、現在の超低金利時代においては、その恩恵は極めて限定的ということができるでしょう。
デメリット③:拠出金の所得控除ができない
iDeCo(個人型確定拠出年金)と財形貯蓄を比べた場合、iDeCoは拠出した金額が所得控除となり年間の所得税が軽減されますが、財形貯蓄は貯蓄に対する引き出しの自由度がある程度高いことも相まって、所得控除の対象外となっています。
年間の給与収入がある程度高かったり副収入などのあったりする方で、少しでも所得税を抑えたい方にとっては、所得税の観点からするとiDeCoを選んだ方が得をする方法となります。
デメリット④:途中での用途変更ができない
財形貯蓄は、目的に応じて最初にどの財形貯蓄の種類を選ぶかを決めることになりますが、途中での変更はできません。
そのため、住宅や年金といった確固たる目的がない方は、基本的に一般財形貯蓄を選択することになるでしょう。
デメリット⑤:リターンが低い
金利の問題とも密接に関係していますが、現在財形貯蓄を利用しても利率が非常に低いため、投資先として財形貯蓄を選択することはあまり賢い選択とは言えません。
ある程度安定的に資金を増やしたい場合は、リスクの低い投資先を選んで積立投資をした方が良いかもしれません。
デメリット⑥:解約・引き出しで税制優遇が受けられない場合がある
財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄の場合、元金550万円分まで所得税が非課税になるという税制優遇を受けることができます。
しかし、中途解約をしたり急な出費などで貯蓄の引き出しを行ったりすると、税制優遇を受けることができなくなります。
現在は金利が安いため大きな金額変動にはなりませんが、デメリットの一つとして理解しておいたほうが良いでしょう。
財形貯蓄が向いている人・向いていない人
では、財形貯蓄のメリット・デメリットを踏まえて、財形貯蓄が向いている人や向いていない人について説明していきます。
向いている人
財形貯蓄が向いている人は、次のような方です。
財形貯蓄が向いている人 |
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給与収入で暮らしていると、なかなか自分の資産について客観的に判断するのは難しいものです。
そういった方のための財形貯蓄という側面もあるため、資産管理が苦手だったり、給与や賞与の支給に浮かれて衝動買いや無駄遣いをしてしまうような人にとっては財形貯蓄が向いています。
また、預金とは別に、将来に向けてある程度計画的に安定した資産を築いていきたい人も、財形貯蓄に向いています。
向いていない人
財形貯蓄が向いていない人は、次のような方です。
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逆に、資産管理が得意で保険などを有効に活用しながら急な出費などにも耐え得るリスクマネジメントができるような人にとっては、資産の流動性に制限を与える財形貯蓄は向いていません。
同じような理由で、投資に資金投入している人も財形貯蓄には向きません。
投資は、ものによっては資産の額面が大きく変動する場合もあるため、自由に使えるお金は残しておいた方が良いかもしれません。
また、すでにiDeCoなどの制度を利用している場合、財形年金貯蓄を検討する必要はないでしょう。
確かに将来的にもらえる金額は増えることになりますが、現在の生活が困窮してしまっては本末転倒となってしまいます。
資産を増やすにはより積極的な投資が必要
財形貯蓄は、将来に向けた安定的な資産を増やすためには効果的な手段ですが、より資産を増やす、つまり資産運用の方法としてはあまり有効ではありません。
資産を増やすには、ある程度リスクを負って投資をする必要があります。
リスクは投資先だけでなく投資方法によっても低減できる
一般的に、投資で損をするリスクと得られるリターンの予測は比例関係にある場合がほとんどです。
しかし、毎月定額で投資をする(これをドルコスト平均法と呼びます)ことによって、リスクを抑えることが可能です。
一つの投資先に一気に資金を注ぎ込んでしまうと、変動があったときに、その影響をもろに受けてしまいます。
しかし、財形貯蓄と同じように、少しずつ定額で投資をしていくことによって、価格変動のリスクを抑えることができます。
ミドルリスクの投資例
財形貯蓄よりもリスクを負うことになりますが、それなりのリターンを得られる投資方法について簡単にご紹介します。
インデックス型投資信託
投資信託は、投資先を自分で選ぶ必要のない投資方法で、「インデックス型」は、その中でもあまり大きなリスクを背負うことなく、資産運用をしていく方法です。
インデックス型投資信託に毎月定額で投資をする方法は、iDeCoやつみたてNISAでも一般的に用いられている方法で、リスクを最小限に抑え投資による利益を得るためには有効な方法の一つと言えます。
ソーシャルレンディング
お金を貸したい人とお金を借りたい人をインターネット上でつなぐ「ソーシャルレンディング」という方法を利用することもできます。
これは、ソーシャルレンディングの取扱い業者に資金を委託して、その資金で融資を代行してもらうことによって、金利で利益を得る方法です。
融資による金利は、財形貯蓄で得られる金利を大きく上回ります。
ただし、融資額の回収不能リスクもあるためミドルリスクであることを認識しておく必要があります。
不動産投資型クラウドファンディング
自己資金だけで不動産投資をすることが難しい場合、「不動産投資型クラウドファンディング」を利用する方法もあります。
ソーシャルレンディングの不動産投資バージョンだと考えてもらえればOKです。
こちらは家賃が主な収入源ですが、通常の不動産投資に関するリスク(空室リスクや家賃踏み倒しリスクなど)が発生します。
ソーシャルレンディングと同様ミドルリスクであることを認識しておきましょう。
まとめ
財形貯蓄について、仕組みやメリット・デメリット、どのような方にとって財形貯蓄が有効な方法となるかについて解説しました。
財形貯蓄が自らの資産管理や目的と合致する場合は、検討をしてみても良いかもしれません。
安定資産を着実に増やすためには良い方法ですが、低金利の関係から投資先としては不十分です。
資産を増やしていきたいと考えている方は、最後に紹介した投資信託やソーシャルレンディング、不動産投資型クラウドファンディングを検討してみてください。