2019年6月某日、関東財務局理財部証券監督第3課主催による「貸付型ファンドに関する説明会」が開催されました。
主に第二種金融商品取引業登録事業者を招き、いわゆる貸付型ファンドが現在どのような問題を抱えているのか、そして財務局として、どのような方針を提示するのかという内容を含む説明会でした。
今回は、そのレポートをお伝えしていきます。
目次
貸付型ファンドに関する説明会への参加会社一覧
まず、貸付型ファンドに関する説明会へ参加した第二種金融商品取引業者は次の通りです。
第二種金融商品取引業者
- SAMURAI証券
- GMOクリック証券
- 日本クラウド証券
- MANEOマーケット
- PAIDY
- COOl
- LENDEX
- LBI
- ロードスターキャピタル
- SBIソーシャルレンディング
- ジャルコ
- クラウドリアルティ
- クラウドクレジットCAMPFIRESOCIALCAPITAL
- LIFULLソーシャルファンディング
- ネクストシフト
- ソーシャルバンクZAIZEN
- ジェイウィルパートナーズ
- ASAアセットマネジメント
- ミュージックセキュリティーズ
- 一般社団法人生活サポート基金
- HAMILTONLANEJAPAN
- プルス・ウルトラインベストメント
- ジェイウィルアドバンス
これら25社となっています。
第二種金融商品取引業免許を抹消された「エーアイトラスト」、そして「ラッキーバンク」は参加していないことがわかります。
maneoマーケットは参加しています。
そして、注目したい点は、GMOクリック証券が参加しているという点です。
GMOホールディングスがmaneoの出資者の一つになっていますが、GMOクリック証券が今回のこの説明会に参加しているということは、貸付型ファンド事業に何らかの形で進出しようとしていることの表れかもしれません。
協力団体
また、次の団体が協力団体として参加しています。
- 第二種金融商品取引業協会
- 日本貸金業協会
- 東京都貸金業対策課
貸付型ファンドに関する説明会の内容
この日の関東財務局理財部証券監督第3課主催による「貸付型ファンドに関する説明会」では、主に二部構成で説明会が行われました。
第一部
第一部は、「貸付型ファンドの現状と課題」でした。
こちらは関東財務局理財部の課長が登壇しました。
第二部
後半である第二部は、「貸付型ファンドに関するQ&A」と題し、日本貸金業協会の企画部長及び第二種金融商品取引業協会の課長が登壇しました。
第一部「貸付型ファンドの現状と課題」
まず、関東財務局理財部証券監督第3課主催による「貸付型ファンドに関する説明会」の第一部である貸付型ファンドの現状と課題からレポートします。
ここで扱われる「貸付型ファンド」という用語は、当サイトで取り上げているソーシャルレンディングに該当します。
財務局では、ソーシャルレンディングの位置づけをインターネット上で出資まで完結する貸付型クラウドファンディングとしています。
冒頭
冒頭では、ソーシャルレンディングの概況が述べられました。
事業者へのアンケートによれば、2017年度の総出資額は1,060億円だったのに対し、2018年度は1,326億円に市場が拡大しています。
これまでの成長と比べるとやや鈍化しているとは言えますが、数々の問題が発生している中でも、2018年度は順調に成長しているということがわかります。
また、想定利回りは8パーセント弱。
平均的な運用期間は15ヶ月から17ヶ月程度というのは、2017年度も2018年度も大きく変わっていないようです。
貸付型ファンドに対する行政処分の状況
説明の中では、平成29年から平成31年に行政処分を受けた業者が紹介されました。
実際に貸付型ファンドを営む事業者だけでも6社9回にわたって行われています。
その中で、2度の行政処分を受けたのは、
- ラッキーバンク
- エーアイトラスト
- FIPパートナーズ
でした。
ラッキーバンクとエーアイトラストは、2度の行政処分を受けたことにより、第二種金融商品取引業免許を抹消されています。
主に、金商法違反がこの行政処分の理由となっていましたが、単純な虚偽表示だから杓子定規に行政処分を行っていたのではないという説明も行われていた点に注目したいところです。
行政処分を行った中でも、意図しない虚偽表示があった件については行政処分が行われたわけではないとしています。
ソーシャルレンディング市場はまだ未成熟であり、一部の案件において、投資家に提示された異なる内容や条件での融資が行われていたという事例は、他のソーシャルレンディング会社でもあったという話でした。
その中でも、金商法違反の発生理由の原因まで踏み込み、悪質であると考えられること、投資家保護に本当に取り組んでいなかったという事実を重視して、行政処分を下したという話です。
また、2度の行政処分を受けると第二種金融商品取引業免許の抹消が行われていることは、まさにイエローカードとレッドカードというところでしょう。
すでに行政処分を受けているmaneo(マネオ)は、今後同様の問題を起こすと、第二種金融商品取引業免許の抹消が行われるかもしれません。
ただし、財務局としてはソーシャルレンディングという投資手法については高く評価しているという発言もありました。
ソーシャルレンディング通じて資産形成が行えるようになれば、国民に投資がもっと身近になり、経済が活性化するという期待を持っているようです。
融資先匿名化解除
2019年3月に発表された、ソーシャルレンディングにおける融資先の匿名化解除についても触れられました。
これまでは、融資先の名前がわかると、個々の投資家が貸金業登録を行っていないのに、貸付主体になってしまうという懸念がありました。
しかし、ソーシャルレンディングの実態に照らし合わせると、個人投資家が貸付主体と呼べる状態ではなく、関係各所からの要請で匿名化の解除も上がってきていたのです。
投資家と借り手が直接接触できないがための方策が担保されていれば、貸付先の名義を解除することが適正という判断により、今回の匿名化の解除は行われたという話です。
財務局ではこの1年、オンサイトによる監視を行っており、同局に寄せられる相談や関係機関からの情報、モニタリングを通じて問題業者への厳正な対応を行っていくとしています。
ただ、財務局は次のような注意も述べています。
「ただ単に匿名化の解除及び、融資先の複数化の見直しを行えば良いというわけではない。
借り手の名前や住所を公開してどうしても、融資先が非公開企業であることも多い。
それだけでは情報が不十分である。
借り手の名前が公開できない場合は、貸付実行者である、第二種金融商品取引業者がなぜ融資の実行に至ったのか、そのデュープロセスを発表するべきである。
同時に担保や融資先の財務情報を提供することで、投資家の安全性が確保されるようになる。」
この点を、ソーシャルレンディング事業を行う各社に要請していました。
ソーシャルレンディング事業者における監督上の課題認識
また、財務局からソーシャルレンディングを提供する事業者は、案件を監督する上で、次の5点の見直しを図ってほしいという説明が行われました。
①情報開示の方向性
貸付型ファンドを固定する場合には、どういった種類のファイナンスであるかの明示が必要。
例えば、
- 企業の信用力や資金などの状況に対して融資を行うコーポレートファイナンス
- プロジェクト自体の可能性について融資を行うプロジェクトファイナンス
- 海外の小規模事業者に対して融資するマイクロファイナンス
こういったファイナンスの種類を提示し、
- 想定利回りの算出方法
- 担保や保証の実効性
が公示されることが望ましいとしています。
②貸付審査、債権管理
また、かなり重要視していたのが貸付に伴う審査、そして債権の管理の問題です。
ソーシャルレンディングファンドで貸し倒れが発生した際に、
- ソーシャルレンディング事業者が満足に担保を処分できない
- 担保の評価額が投資家への提出内容より著しく異なっている
という事態が頻発しています。
そこで、
- 貸付先の審査として貸付の対象
- 与信ポートフォリオの管理
- 決裁権限に関するクレジットポリシーを定めること
- 貸付先の財務状況や資金の使途
- 返済財源を的確に把握できる審査体制になっているか
こういった点を求めるとしています。
債権管理においては、次の3点を各事業者で確保して欲しいとしています。
- 貸付先の財務状況
- 事業の進捗
- 担保物件の評価額の変動のモニタリング
この3点を確保し、同時に返済の遅延や延滞発生時のポリシーを定めることが必要だとの話もありました。
ポリシーには債権者の権利として担保物件の競売、任意売却を行うための体制づくりも含まれるということです。
債権の管理において、ソーシャルレンディング会社が債務者に対し、ポリシーに沿った厳正たる対応を取ることができる体制が今後求められます。
特に気になったコメントとして、問題となったソーシャルレンディング事業者は1社・2社に対する融資が集中しているケースが多かったということです。
これは普通の金融機関ではあり得ないことであるとも告げています。
事業者ごとに対象範囲や分野といった得意分野は現れるのは仕方ないが、その中でもきちんと融資先の分散を図ること。
そして、何よりも、投資家から預かった金を扱うという意識が欠如しているという指摘がありました。
実際に延滞が発生すると担保が設定されていても、ソーシャルレンディング事業者が手が出せていないという状況が多かったようです。
③資金使途の把握
次に要請があったのが、ソーシャルレンディングによって集めた資金使途の把握です。
まず、融資先の事業者の事業規模や事業内容において借入額が合理的な金額であるのかを知る必要がある。
同時に事業計画が成功しているのかを、きちんと審査するべきということでした。
そして、出資対象をモニタリングし、事業のファンド報告書を受け取ることも必要であるとしています。
④利益相反の適切な管理
利益相反に関する適切な管理が行われているかという点も、大きな問題として扱っていました。
特に、ソーシャルレンディング会社が親会社の資金調達部門になっていたことは大きな問題だとしています。
グループ内向け貸付を行う場合、融資利率を高く設定すると融資を受けた側の負担が増え、グループ内での利益相反が発生します。
そして、身内に対して貸付を行った場合は、融資の際の審査そして回収も甘くなります。
これは、実際には身内企業のリスクを軽減し、投資家にリスクを負わせている状況だと財務局は指摘していました。
法令上問題はないのですが、この件に関しても投資家から集めた資金を融資しているという意識を強く持って欲しいとしていました。
そして、なぜ金融機関からの資金調達ではなく、身内のソーシャルレンディング会社から高い金利で融資を受けるのか、融資をするのか、その理由を適切に投資家に開示することを要請していました。
⑤ファンドの商品設計
ファンドの商品設計に関する指摘です。
ソーシャルレンディングでは、リスクが低い短期案件の方の評判が良く、ソーシャルレンディング事業者も1年前後の短期案件を主流としています。
しかし、短期案件の実態は、ファンドの運用期間と融資先の資金事業計画がマッチせず、短期に見せるために安易な借り換えが頻発していたということです。
また想定利回りとして、年5パーセントから9パーセントほどのファンドが多いですが、開発型のプロジェクト向けの融資の場合、実際にその資金の運用期間中に収益が発生しないケースも多くあったということです。
融資を受けた側がキャッシュフローを生み出していないのに、高金利を投資家に分配していた点では、他から集めた資金を流用していた事実もあったのではないかとしています。
そして、最も念を押して伝えていたのが、担保の説明が不十分だということです。
担保付ローンになると投資家のイメージは良くなり、高い保全率として担保処分により資金を回収できるという期待を持たせることができます。
しかし、実際に担保を処分せざる得ない場合は、往々にして当初の評価額よりも大きく下回っている事が多く、特に動産担保、譲渡担保の場合は換価が著しく低くなっているのが現状です。
担保に対する審査、そしてその審査や評価額に対する根拠の提示が必要だとしています。
第二部「貸付型ファンドに関するQ&A」
関東財務局理財部証券監督第3課主催による「貸付型ファンドに関する説明会」の第二部の「貸付型ファンドに関するQ&A」に関しては、基本的に次の資料の読み上げでした。
リンクからその資料を確認できますので、各自よく読んでみてください。
資料で注目すべきポイント
注目していただきたい点は、Q13の「勧誘時に提供・説明すべき情報」です。
ここには、ソーシャルレンディング事業者が、投資家から資金を募集する際にどういった点について説明するべきかが列挙されています。
また、Q14「貸付先(借り手)の属性」もよく読んでおきたいポイントです。
そして、Q16「利害関係者を貸付先(借り手)とする貸付型ファンドの勧誘時の留意点」も注目です。
「ラッキーバンク」や「みんなのクレジット」のように、身内企業への融資が中心であったという問題が二度と起きないように、ソーシャルレンディング会社各社に対しての通達になっています。
資料以外で注目すべきポイント
この資料以外の読み上げ以外で、特筆すべきポイントがありました。
貸金業協会の方によれば、現在税制改正要望をあげているということでした。
ソーシャルレンディング投資における利益は現在「雑所得」扱いであり、最大税率は45パーセントです。
これを、株式投資やFX投資の利益のように「分離課税」にして、最大で20パーセントにできるように働きかけているということです。
質疑応答
説明会の最後には、質疑応答も行われました。
その中ではクラウドバンク、SBIソーシャルレンディングが挙手し質問を投げかけていました。
クラウドバンクの質疑応答内容
クラウドバンクは、思ったような利益を投資家に分配できない場合は、事業者の利益を減らして損失補填をすることは問題ないのかという問いかけでした。
この質問に対して、財務局は営業者収入を下げることは適切なのかどうかは、これから判断したいと発言しています。
SBIソーシャルレンディングの質疑応答内容
SBIソーシャルレンディングは、一定条件下での情報開示を行いたいが、開示の同意が得られない場合はノーアクションレターとして、その内容を通知するべきなのかどうかということを聞いていました。
こちらに関しても、まだ検討課題だという回答でした。
まとめ
2019年6月に関東財務局理財部証券監督第3課主催によって行われた「貸付型ファンドに関する説明会」により、財務局からソーシャルレンディング会社を中心とした第二種金融商品取引業業者に対して、具体的な内容の今後の行動方針が提示されたと言えます。
この方針にしっかりと従うことが、第二種金融商品取引業業者には、今後は求められてきます。
従えない会社は投資家からの信用も失い、いずれは営業停止に追い込まれるかもしれません。
この1ヶ月から2ヶ月の間の各ソーシャルレンディング会社の情報家事、そしてその内容についてはぜひとも注目をしていきたいものです。
今回の説明会の内容はクローズドなものではなく、各社のブログなどでの報告は問題ないとされています。
この説明会に関する記事や報告をあげるソーシャルレンディング会社がいるのか、そこにも注目をしたいところです。