2016年までは、特に大きな問題もなく順調な成長を続けていたソーシャルレンディング業界。
しかし、2017年から2018年にかけて行政処分を受ける会社が多数現れました。
日本におけるソーシャルレンディングの不祥事が一般に広く知られる事になったのはこの時期だと言えるでしょう。
そこで、2017年から2018年当時にどのような問題が発生したのか、また2019年現在に至るまでに業界にどのような影響を与えたのかについて振り返り分析してみましょう。
目次
2017年~2018年の日本のソーシャルレンディングの位置づけ
2013年から2016年にかけて、多数のソーシャルレンディング会社が運営を開始しました。
その中には、案件の年間利回りが10%パーセント超えるような会社も多く存在し、不動産投資やREIT(不動産投資信託)よりも利回りが高い投資として大いに注目を浴びるようになりました。
しかし、高い利回りを設定すればするほど、融資先に対する金利を上げる必要があります。
したがって、投資家に対して気安く案件を提供できるものではありませんでした。
今思えば、高い利回りは投資家を惹きつけるための口実に過ぎず、実際のところは無謀だとわかっていたのではないかと考えられます。
問題点が徐々に浮き彫りになる
ソーシャルレンディングの問題点として、「融資先事業者の匿名化」が挙げられます。
2014年までは、金融庁は融資先の匿名化を指示していませんでした。
maneoでも融資先の名前は公開されていたのです。
ソーシャルレンディングでは、貸付けによる金利収入を投資家に還元します。
ところが、「貸金業者として登録していない個人が貸金で収入を得ている」という事実が問題視され、2014年から金融庁の指導によって融資先が匿名になりました。
この匿名化こそが、ソーシャルレンディング業界において数々の問題を引き起こすきっかけになったのです。
匿名化の欠点が露呈したのが2017年でした。
訴訟を起こす投資家が現れる
2017年から2018年にかけて数々の行政処分を受けたソーシャルレンディング会社に対し、投資家は訴訟を起こしました。
2019年時点で訴訟を受けている会社は
- みんなのクレジット
- Lucky Bank
- maneo
- トラストレンディング
であったり、maneoのシステムを利用していた次のような会社です。
- グリーンインフラレンディング
- クラウドリース
- ガイアファンディング
投資家は、次のような点を問題視し、投資金の返還を求めました。
- 各ソーシャルレンディング会社が資金を募集するために謳っていた内容に虚偽があったこと
- あからじめ設定した担保を処分して投資家に返済できていないこと
こういった訴訟は、 NHKやテレビ東京などの大手メディア、各主要新聞でも取り上げられました。
しかし、2019年末時点でも、判決が出たとの報道はなされていません。
2017年2月のみんなのクレジットショック
投資家が訴訟に出るきっかけになったのが、2017年2月に大きな波紋を呼んだ「みんなのクレジットショック」です。
では、どのような点が投資家に影響を与えたのでしょうか?
みんなのクレジットは、2016年からソーシャルレンディング事業を開始した会社です。
10パーセントを超える非常に高い利回りに加え、プラス5パーセントも見込めるキャッシュバックキャンペーンを展開しました。
アフィリエイト広告を積極的に展開し、短期間に5,000人を超える投資家を集めていたのです。
しかし、営業を開始して1年も経たない2017年2月、金融庁から行政処分が下されました。
金融庁が下した行政処分の理由および背景を端的にまとめると、次のとおりです。
- みんなのクレジットで集めた資金を親会社へ融通していた
- 集めた資金を社長の個人的な返済に充てていた
- 担保評価の低い不動産を担保に設定していた
「あまりにも高額なキャッシュバックキャンペーンや案件を展開していた思惑には、一時的に多額の資金を集め、ほとぼりが冷めたところで業務を畳む計画を立てていたからではないか」
非常に早い段階で金融庁の調査が入った頃に、このような憶測が飛び交いました。
みんなのクレジットは、わずか1年足らずで30億円以上の投資金を集めました。
短期間で資金を大量に集める事ができたのは、背景には融資先の匿名化があったからだと考えられます。
子会社が運営するみんなのクレジットが、返済能力のない親会社に資金を融資していたため、実質的にみんなのクレジットは「親会社の資金調達部門」と化していたのです。
子会社が親会社に対して強く返済を迫ることは利益の相反行為にあたるため、通常は困難を極めるはずです。
しかしながら、親会社への融資が明白であったならば、投資を断念した投資家も多かったでしょう。
つまり、匿名化が親会社への投資案件である事実を隠蔽(いんぺい)する結果をもたらしてしまったのです。
まさに、匿名化の大きな欠点が露呈した事件でした。
行政処分後、しばらくの間みんなのクレジットは投資家に対して返済を続けていましたが、2017年4月頃から配当金の分配と案件の募集を停止しました。
担保や資金用途の虚偽等が問題視され、2019年11月末現在も投資家から訴訟を受けています。
2018年には担保を処分して投資家に返済しましたが、返済総額は資金のわずか3パーセントに過ぎませんでした。
2017年に行政処分を受けたソーシャルレンディング会社
2017年には、みんなのクレジットだけでなくCrowd Bank(クラウドバンク)も2回目の行政処分を受けました。
処分の内容は融資のスキームに関するものではなく、キャンペーンの募集用広告に利用者の誤解を招きかねない表現が使用されたとして是正を求めるものでした。
そのため、特に営業に大きな支障が出ることはなく、2019年11月末現在もクラウドバンクは順調に事業を続けています。
2018年はラッキーバンク・maneo(マネオ)と行政処分が相次ぐ
2018年2月にはラッキーバンク、2018年11月には maneo(マネオ)と、行政処分を受ける会社が相次ぎました。
特に、ソーシャルレンディング業界最大手のmaneoが行政処分を受けたことは、業界全体に大きな影響を与えました。
その背景には、maneoが自社のシステムを利用していた会社への審査体制が不十分であったことが挙げられます。
同時にみんなのクレジットでも問題視された「融資先の匿名性を利用し、関連会社への未融資を行う」という資金調達スキームもクローズアップされました。
ラッキーバンクの行政処分
ラッキーバンクは、最大で10パーセント台の高利回り案件を提供し、すべての案件に不動産担保が付くとの触れ込みで投資家から好評を得ていました。
しかし、金融庁財務局の調査の結果、次の項目が問題視されました。
- 融資先が親族の経営する会社である
- 不動産の査定が自社による相場を見ない適当なものである
2018年4月には配当金を停止しました。
メディアへの露出も積極的だったため、大勢の投資家は「マスコミに社長が顔を出しているから、会社に問題はないだろう」とつい騙されてしまったのです。
maneo(マネオ)の行政処分
maneo(マネオ)は、多くのソーシャルレンディング会社にシステムを提供し、最大で12社を超える会社がmaneoを利用してソーシャルレンディング案件を募集していました。
maneoは、「最大手のソーシャルレンディング会社だから大丈夫だろう」と、つい甘く見てしまう人が多かったのです。
しかし、2018年7月にグリーンインフラレンディングに対する
- 資金用途の監視の不備
- 案件の内容に虚偽がありその監査を怠った
といった内容で、金融庁財務局から行政処分を受けました。
グリーンインフラレンディングの大量の返済遅延
maneoが行政処分を受ける直前、グリーンインフラレンディングが案件の募集を停止しました。
その理由は、maneoのグリーンインフラレンディングに対する監査や審査の不備であり、金融庁に案件を募集することを禁止されたからだと見られます。
そして、ほぼ同時期に投資家への分配を中止しました。
100億円を超える投資家の資金が拘束され、大半が投資家に返済されない状態が2019年11月末時点も続いています。
2017年~2018年のソーシャルレンディング事情が2019年に与えた影響
2017年から2018年にかけて起きた各ソーシャルレンディング事業者への行政処分。
それは、2019年のソーシャルレンディング業界には、どのような影響を与えたのでしょうか?
影響①:金融庁の匿名化解除方針の通達
最も大きな変化として挙げられるのは、2019年3月に通達が行われた金融庁の「匿名化解除方針」でしょう。
それまで、2014年に金融庁が匿名化を通達したことから、ソーシャルレンディング各社の融資先に関しては、投資家に伏せられるようになりました。
そこで、匿名化を逆手に取り、投資家に不利益を与えるソーシャルレンディング会社が相次いだことから、金融庁は方針を転換しました。
関係各社に対し、事業者名の告知を許可する通達を出したのです。
影響②:maneoおよびmaneoのシステムを利用していた会社が新規案件の募集を停止
日本国内のソーシャルレンディング会社では、会員数および累計募集金額ともに最多を誇るmaneo。
maneoは第二種金融商品取引業登録を行っていない会社に対し、資金の募集に必要なプラットフォームを提供していました。
しかし、maneo及び同社のシステムを利用していたソーシャルレンディング各社は、2019年7月から案件の募集を停止しています。
これは、関係各社による案件の審査が十分ではなかったため、金融庁は事実上の業務停止命令を出したと思われます。
影響③:maneo関連以外の会社への資金流入
2018年の行政処分で信用を失ったとはいえ、maneoの存在は大きなものがあります。
毎月数十億円規模の募集を行っていたため、maneoがすべての案件の募集を停止した結果、それまでmaneoに向いていた投資家の資金は、他のソーシャルレンディング会社になだれ込みました。
その結果、maneo以外のソーシャルレンディング会社、そして似たような特性を持った投資手法の「不動産投資型クラウドファンディング」の人気が上昇する現象が見られるようになりました。
SBI ソーシャルレンディングは数億円規模の案件を募集しても、1時間も経たずに募集を締め切る(募集金額に到達する)ほどの盛況ぶりです。
また、Owners Book(オーナーズブック)や2019年1月に営業を開始したばかりのFunds(ファンズ)は抽選制を導入し、投資機会を公平かつ多く提供できるように努めています。
Crowd Credit(クラウドクレジット)やCrowd Bank(クラウドバンク)といった大手ソーシャルレンディング会社は、順調に資金を継続して集めることに成功しています。
さらに、LENDEX(レンデックス)やネクストシフトファンド、ポケットファンディングのような中小のソーシャルレンディング会社も同様に、案件を募集して瞬時に募集金額の上限に達してしまうほどです。
「不動産投資型クラウドファンディング」サイトも、募集開始から一瞬で投資金額の上限に達するなど、投資家の需要に案件や金額の供給が追いついていない現状が伺えます。
各ソーシャルレンディング会社での融資先の事業者名公開
投資家のメリットとして最も大きな変化があったのは、匿名化解除の方針を受けた各ソーシャルレンディング会社が、融資先事業者名の公開を始めたことでしょう。
SAMURAI(サムライ)は金融庁の通達を受け、いち早く全案件の融資先事業者名の公開を行ないました。
Fundsも同様の措置を見せています。
他のソーシャルレンディング会社においても、全ての融資先案件の事業者名の公開までには至っていませんが、融資先の合意が得られた案件に限って事業者名を公開しています。
それに伴って、融資先の財務状況、ソーシャルレンディング会社と人的・資本的な関係がないかなど、より詳細な情報が公開されるようになりました。
投資家は情報を探りながら安全性を確認し、納得した上で投資先が選べるようになりました。
まとめ
2017年から2018年にかけて起きた各ソーシャルレンディング会社への行政処分は、投資家に甚大な額の損失と拭い切れない失望と不信の念をもたらしました。
こちらの問題は、まだ原因が究明中であったり、投資家が訴訟を起こしたりと、解決にはまだ時間を要するものと思われます。
一方で、金融庁が匿名化の解除を通達した結果、各ソーシャルレンディング会社が投資家に対して積極的に豊富な情報を提供するようになりました。
怪我の功名というわけではありませんが、行政処分はソーシャルレンディング各社が透明性の高い投資手法の第一歩を踏み出すきっかけを作ったのです。
クラウドアンサー編集部では、ソーシャルレンディングの変遷について独自の見解で分析しています。
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