ソーシャルレンディング投資は日本において2008年から融資実績も右肩上がりで規模拡大を続けてきました。
現在拡大途上であり、借り手や事業者の管理体制強化など課題もあります。
しかし、今後は海外好事例の取り込みや次世代教育分野への展望、支払いの多様化など更なる好環境を生み出す要因もあります。
今回は、ソーシャルレンディングへの新しい投資対象としての広がりも含めて詳しく紹介していきます。
目次
ソーシャルレンディングの現状
まずは、日本におけるソーシャルレンディングの現状について解説しましょう。
2008年のサービス開始以後、事業会社も増え、各事業会社における融資残高や案件総数も増えてきました。
テレビCMも開始され、これまで認知されていなかった方に向けても知名度は上がりました。
そして、個別案件についてさまざまなジャンルにて商品が組成され、新規投資をされる方も多くなってきています。
融資残高は右肩上がりで成長している
2008年のmaneoサービス開始以後、ソーシャルレンディング事業会社は20社以上と、市場全体が大きくなってきました。
各会社で実際に投資されている融資残高も2017年前後から加速度的に伸びています。
これは、ソーシャルレンディング投資がひとつの投資対象として認知されてきたということです。
導入当初は、投資に積極的な方であっても、分配金がしっかり払われるか様子を見たいと思うものです。
しかし、年月の経過とともに、分配金の支払い実績は増えていきます。
また、貸し倒れ(デフォルト)や遅延なども起こる中で、事後対応をしっかりと行った事例も出てきています。
さらに、昨今では多くの運用資金をソーシャルレンディングに投入して、実績を出したという報告も増えてきています。
それだけ、継続したソーシャルレンディングの運用体制が整ってきたと見えます。
事業者数も増えている
ソーシャルレンディング事業会社自体の数が増えてきたことも、業界全体の追い風となっています。
ソーシャルレンディング投資では、事業会社を分散することで、1社の倒産リスク(事業者リスク)を軽減させることができます。
分散できるだけの管理体制を兼ね備えたしっかりした事業体が増えたということなのです。
新規投資として貸し手として参入する方の増加も見受けられます。
また、個別案件に関しても、当初の不動産関連融資から、太陽光や社会的責任ファンドとしての要素を含んだ案件など、だんだんとバラエティに富むようになってきています。
テレビCMにより認知が高まっている
「SBIソーシャルレンディング」と「クラウドクレジット」がテレビCMを開始したことにより、ソーシャルレンディングの知名度が向上しました。
「かけはし」や「ソシャレン」といったキーフレーズは、ソーシャルレンディング投資を行っていない方にもだんだんと浸透しつつあります。
また、投資額を1万円から開始できるソーシャルレンディング事業者も増えてきました。
1万円という少額から投資を体験できるため、参入障壁が低く投資家を集められているのです。
ソーシャルレンディングで今後改善が求められること
ソーシャルレンディングの今後の展望として、現状の課題から改善が必要な部分を取り上げて解説しましょう。
現在、問題点は大きく分けて次の2点が挙げられます。
- 内部管理体制(事業者と借り手間の問題)
- 情報提供範囲の問題
では、それぞれの問題点について詳しく解説していきましょう。
1.内部管理体制(事業者と借り手間の問題)
ソーシャルレンディング事業者は、借り手と貸し手をつなぎ合わせる役割を担っています。
そうなると、事業者と借り手の間に利益相反関係がないかという問題が浮上します。
これは、会社間はもとより、担当者ベースでも懸念される問題なのです。
これまでも、ソーシャルレンディング事業者各社は、自主管理の強化を取り組んできました。
しかし、これからも健全な投資環境の維持という観点では、さらにもう一歩踏み込むことが求められます。
その方法のひとつとして、取り組みを公表することがあげられます。
内部管理体制として行っている内容を公表すれば、投資家はその強度を把握することができます。
高い次元で内部管理が行われていれば、貸し手側の安心感につながります。
さらに発展した段階では、業界全体で統一基準など管理体制の制定が考えられます。
今後の流れとして、ソーシャルレンディング業界全体で懸念低減が求められます。
そのため、各社一丸となって公正な取引環境を構築するというスタンスが大切なのです。
2.情報提供範囲の問題
情報提供範囲の問題とは、借り手企業の実態把握に不透明なところがあるという問題です。
つまり、都合の悪い所を隠すことができるのではないかという観点です。
ソーシャルレンディングの場合、投資先である借り手の情報が匿名です。
つまり、投資した資金の流れが不透明になるというリスクがあるのです。
なぜ匿名なのかというと、ソーシャルレンディングに関係する次の2つの法律による規制問題があるためです。
- 金融商品取引法
- 貸金業法
これらの法律は借り手と貸し手の保護を目的としており、匿名性にせざるを得ないのです。
しかし、匿名性は貸し手を無駄に敬遠させてしまう要因であり、成約を遠ざけてしまう原因となりかねません。
借り手の情報を直接開示せずとも、業界における競合との位置づけなど、別角度からの情報提供量を増やすという方法が考えられます。
絶対的な情報ではない相対的なデータや、他社に追いつくために必要な部分をしっかりと開示することによって、問題が鮮明となり情報提供の質が上がります。
【2019年3月19日更新】:匿名性の解除が発表されました。
さらに、一定の形式で貸し手から質問を受け付ける方法もあります。
その都度質問を受け付ける即時対応ではなくとも、取りまとめた後でまとめて回答という手段も考えられます。
貸し手側が借り手側に関してどのような情報を知りたいと思っているかを理解することにつながるため、双方向で対応することが今後の形となっていくのではないでしょうか。
日本のソーシャルレンディング市場についてはこちらで詳しく解説しています。
海外のソーシャルレンディングから見る今後の日本の展望
ソーシャルレンディングの今後を考える上で、海外市場の伸びは無視することはできません。
海外のソーシャルレンディングの市場規模から取扱分野の違い、個別案件の海外要素の増加について解説していきます。
海外と日本の違い①:中小企業融資でポジションを獲得している
海外のソーシャルレンディングでは、中小企業融資に対して確固たる位置づけを築いているケースもあります。
ソーシャルレンディング融資を受けることから返済実績を積み上げ、銀行融資へとつなげていく流れを取る形も見られます。
海外と日本の違い②:個人間融資案件が発展している
日本ではmaneoがサービス開始当初は、個人間融資案件を取り扱っていましたが、返済遅延も多く撤退した事例があります。
しかし、海外市場では個人間融資が発展した分野となっています。
そのため、日本でも再度開拓する動きは出る可能性があるでしょう。
個人間では、審査の透明性や厳格さを図るといった部分に難しさがあります。
個人の借り手を1つのグループでまとめる形も方法でしょう。
例えば、飲食店の開業資金が欲しい方をまとめて1つの借り手とします。
仕組みを工夫できれば軌道に乗る事業者が出るかもしれません。
海外と日本の違い③:NISAに相当する商品が組み込まれている
海外におけるソーシャルレンディングの位置づけとして見逃せない点は、日本のNISA(少額投資非課税制度)に該当する英国ISAに商品が組み込まれているという点です。
投資機会の多様さから知名度にいたるまで、今後の日本におけるソーシャルレンディングの広がりについてヒントとなりそうな形です。
日本では海外投資案件が増加している
最近では、海外を対象とした個別案件も増えてきています。
例えば、SBIソーシャルレンディングのカンボジア実習生支援案件などが挙げられます。
海外案件では、為替差益といったいままでとは別角度での収益源を確保できるかどうかも今後大切なポイントになるでしょう。
現在は、「クラウドクレジット」における各国通貨建ての案件や、「クラウドバンク」の米ドル建て案件といった個別案件があります。
投資を検討する際は、為替ヘッジ有の案件など、リスクを抑える部分に適宜注意することが必要です。
なお、海外のソーシャルレンディング市場に関しては、こちらで詳しく解説しています。
日本のソーシャルレンディングの今後
最後に、日本市場におけるソーシャルレンディングの今後の予想についてお伝えしていきましょう。
次の2つの側面から解説していきます。
- 支払方法の多様化
- 買い入れ対象の拡大
1.支払方法の多様化
支払い方法の多様化は、始めてソーシャルレンディングに取り組む方への利便性という観点から欠かすことができない側面です。
①クレジットカード払いの推進
クレジットカード払いは即時決済が可能です。
「SBIソーシャルレンディング」のクイック入金における即時入金と近い性能となります。
自己資金のリスク商品への配分比率を意識することは大切です。
そこで、配分比率を高めすぎない為に回数を分けて投資を
行いたいこともあります。
このような、複数回分けてでも投資はしたいが、時間も分けたいという
際にも決済を簡潔に行えて有用です。
また、決済工程と情報提供の問題をうまく合わせられるかもしれません。
例えば、事業者が仮払いのような形でクレジット決済を受けたら、サイト上に
表示することができない情報開示を貸し手に行った上で
決済を行うという形です。
サイト上に公開が難しい情報でも、貸し手には伝えておきたい内容もあります。
情報公開の難しい部分を解消するひとつの方法とも言えます。
②多様な決済と実地を交えた案件
1案件1万円からの少額から投資が可能であることは、
始めるハードルを下げようという意図がありますね。
少額決済に手軽なコンビニ払いや電子マネー決済も
始めやすさで言えば検討に値する内容ではないでしょうか。
支払い方法にとらわれない現地決済方式も他にも考えられるでしょう。
今後の展望では決めつけない柔軟な考えも大切です。
2.買い入れ対象の拡大
現在よりも貸し手が増えれば、ソーシャルレンディングの市場規模は拡大します。
今後特に注目される不動産案件や、新規導入の見込まれる分野について解説していきましょう。
①不動産推進の流れ
東京オリンピックに向けて、日本国内では不動産開発需要は高まりを見せています。
オリンピック後も、利用施設のリニューアルなど不動産開発案件は続くと考えらるため、資金調達のニーズは高まることが想定されます。
不動産開発では、資材や人手の需要が高まっていることから、原価が向上することも想定されます。
そのため、資金調達のひとつの方法としてソーシャルレンディングにて借り手も増えることが想定されるのです。
借り手が増えれば、信頼できる情報を開示できない企業は淘汰されていきます。
そのため、単に投資の利回りが向上する以外にも、ソーシャルレンディングの環境面における向上が見込まれます。
②NISAやiDeCoへ採用の可能性
現状、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)において、ソーシャルレンディング投資は解禁されていません。
しかし、今後は採用される可能性が高いと考えられます。
ソーシャルレンディングにNISAが導入される場合、次の2つのケースが考えられます。
- ソーシャルレンディング事業者がNISA対象事業者となる
- 証券会社や銀行に取扱商品のひとつとして提供する
現状どちらの形態が取られるかはわかりませんが、投資促進の流れからも採用されるケースは十分に考えられます。
また、iDeCoに関しては、個人で投資を行い年金準備を促進する流れは続くと考えられます。
特に、拠出対象の広がりや拠出限度額の高まりなどの流れが現在拡大傾向にあります。
今後も年金財政との兼ね合いで、さらにiDeCo自体の規模が拡大していくことが見込まれます。
そして、商品充実という観点から、ソーシャルレンディングへという流れも考えられます。
③日銀買い入れ規模拡大の流れ
日銀におけるETF(上場投資信託)買い入れが、いわゆる、アベノミクス以降の
金融政策の柱として行われています。
設備投資や人材投資に積極的に取り組んでいる企業を対象にするなど
ソーシャルレンディング分野に近い対象もあります。
現状のソーシャルレンディングの市場規模では厳しいかもしれません。
しかし、買い入れ対象の拡大も検討しているという声もあります。
ソーシャルレンディングが買い入れ対象に選ばれる日がくるかもしれません。
ソーシャルレンディングは次世代金融教育の一翼を担う
ソーシャルレンディングは、今後の次世代金融教育に合った内容の投資です。
事業案件への融資やお金の流れ、個別案件を検討する際に何を気にすべきかなど、金融教育に役立つ内容が多々含まれています。
今後を見据えても、「ジュニアNISA」に対する主旨の一致という観点も含めて進展が期待されます。
次世代金融教育への注目
次世代に向けた金融教育の重要性が昨今取り上げられています。
投資に限らず、お金の管理という側面からも学習するきっかけが大切とされます。
生活環境の変化と合わせて、現在は小学生から金融教育に取り組む動きも出てきました。
ソーシャルレンディングでは、個別案件に投資するうえで、さまざまなリスク把握について考える必要があります。
そのため、個別案件の精査や借り手に関する問題がないかについて考えるプロセスが、そのまま金融教育として役立つのです。
ジュニアNISAでの取り組み
ソーシャルレンディングは、ジュニアNISAの目的として掲げる子供の投資教育という方向性とよく合っています。
将来必要となる教育資金といった将来の資産形成について考える上で、お金の流れを把握することはとても重要です。
現状、NISAはソーシャルレンディング商品を対象商品とはしていません。
しかし、この教育目線からジュニアNISAより導入されるという展開は今後あるかもしれません。
まとめ
ソーシャルレンディングの今後は、さまざまな分野に広がる可能性があります。
情報の透明性を高め、海外の好案件を取り入れる形で、既存商品の価値を向上するという視点もあります。
また、次世代金融教育への貢献や、支払い方法の多様化といった仕組みが変わることも期待できます。
さらに、新たな買い入れ対象としてのソーシャルレンディング投資の飛躍も考えられます。
今後もソーシャルレンディングからは目が離せないでしょう。