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ソーシャルレンディングの貸し倒れリスクとは
ソーシャルレンディング投資における最大・最悪のリスクは貸し倒れ(「デフォルト」とも呼ばれます)です。
貸し倒れとは、「投資家が貸し付けた資金が返ってくる見込みがないこと=投資元本を失うこと」です。
投資の利益(利回り)が想定より低くなることはまだしも、投資元本をまるまる失うのは投資家にとって大きな打撃ですよね。
ソーシャルレンディングは、ミドルリスクだと言われている投資法です。
しかし、ここ数年は事実上の貸し倒れ案件が増えており、ソーシャルレンディングの貸し倒れリスクは決して低いとは言えない状況になってきています。
貸し倒れとはそもそも何か、近年の貸し倒れの状況や、リスクを防ぐ方法について解説していきましょう。
そもそも貸し倒れの定義とは
ソーシャルレンディングにおける「貸し倒れ」とは、そもそもどういう定義なのでしょうか?
ソーシャルレンディング事業者のサイトを見ると、「過去の貸し倒れ発生件数:0件」などと書かれていることが多いですよね。
しかし、多くのソーシャルレンディング投資家のブログを見てみると、「貸し倒れや遅延で〇〇円の損失!!」ということばを目にします。
事実上の貸し倒れ案件といっても良い「みんなのクレジット」(※)の例もあります。
※みんなのクレジットの貸し倒れ案件とは
約30億円もの貸付金がいまだに返還されていない事件です。
詳しくは後述します。
「貸し倒れ」とはそもそも、「貸付金などの債権が借り手側の倒産などによって全額回収できなくなる事態」を指し、会計上の用語である「貸倒損失」からきています。
国税庁のタックスアンサーでは、「貸倒損失」の定義を次のとおり定めています。
1 金銭債権が切り捨てられた場合
2 金銭債権の全額が回収不能となった場合債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。
なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。
3 一定期間取引停止後弁済がない場合等
この中では、2がソーシャルレンディングの貸し倒れに相当する事例といえますね。
2の文章をよく見ると、「全額回収不能となった場合」でかつ、「担保物がある場合は処分した後でなければいけない」という条件が付いています。
結構厳しいですよね。
しかし、多くのソーシャルレンディング事業者による「貸し倒れ」の定義は、会計上の貸し倒れ定義である2を指しています。
つまり、投資家にとっては、「長期間資金が返済されない状態」=「実際にはもう貸し倒れじゃん」と思うような事例であっても、ソーシャルレンディング事業者にとっては、「まだ債権回収中」=「貸し倒れではなくて遅延」という定義なのです。
ただ、遅延が多発&長引くと、投資家サイドから見れば事実上の貸し倒れと言いたくなりますよね。
ソーシャルレンディングで貸し倒れリスクを考えるときは、こうした事業者サイドと投資家サイドの考えの違い、人によって「貸し倒れ」の定義が違うことも知っておかなければなりません。
最近のソーシャルレンディングの貸し倒れ・遅延実態
近年のソーシャルレンディングの貸し倒れや遅延の実態はどうなっているのでしょうか?
先述のとおり、「貸し倒れ」という用語自体の定義が厳しいため、貸し倒れの実態を見るときは「貸し倒れ件数ゼロ」という事業者のことばをあてにしないように注意することが必要です。
貸し倒れの件数や比率よりも、
- 貸し倒れの規模
- 事業者の対応
などを見ることが大切です!
ここではまず、事実上の貸し倒れ、大規模遅延の実態について紹介していきましょう。
事実上の貸し倒れ
有名な「みんなのクレジット」と「ラッキーバンク」の事件です。
①みんなのクレジット
貸付金約31億円のうち、約1億円の債権譲渡が決定(事実上97%の貸し倒れ)
②ラッキーバンク
貸付金約50億円のうち、約16億円の債権譲渡が決定(事実上70%貸し倒れ)
貸付金の規模が多額であるにもかかわらず、これだけ少額の債権で譲渡してしまうとは……事業者の対応にもびっくりしますし、誠実さがまったく感じられません。
2019年3月現在遅延が目立つ事業者と遅延状況一覧
次に、貸し倒れにはなっていないものの、現在大規模遅延が発生しているソーシャルレンディング事業者の実態を見てみましょう。
2018年ごろから、ソーシャルレンディング業界最大手の「maneoマーケット株式会社」を始め、「maneoファミリー」と呼ばれる多くの事業者が貸付金の遅延を数多く発生させています。
遅延の状況については変動がありますが、2019年3月現在で遅延総額は200億円を超えています。
各事業者の遅延・デフォルト(貸し倒れ)一覧
- maneoマーケット株式会社:延滞債権/デフォルト債権一覧
- グリーンインフラレンディング(maneo系):延滞債権/デフォルト債権一覧
- ガイアファンディング(maneo系):返済実績一覧
- キャッシュフローファイナンス(maneo系):返済実績一覧
- クラウドリース(maneo系):返済実績一覧
maneoマーケット株式会社は、ソーシャルレンディング業界のパイオニアであり、過去の貸付実績も頭ひとつ飛びぬけています。
「ソーシャルレンディングを始めるならまずはmaneoから」という人は多かったのではないでしょうか?
事実、筆者も過去はmaneoをおすすめ事業者のひとつにしていましたが、この現状を見るとしばらくはmaneo系への投資は控えたほうが良いと言わざるをえません。
ただ、上記の遅延案件についてはまだ事業者が回収を試みている段階なので、今後一斉に返済される可能性もゼロではありません。
大切なのことは、貸し倒れや遅延発生時の事業者の対応です。
ここでどれくらい回収できるのか、投資家が納得できるような対応を見せてくれるのかどうかで、各事業者の真価がわかることになるでしょう。
今後、maneo系の遅延状況がどうなるか、対応の様子と合わせて注視が必要ですね。
別の投資家さんがこちらの記事でmaneoマーケット株式会社への投資の危険性について解説していますので、併せて確認してみてください。
貸し倒れリスクを防ぐための方法
ソーシャルレンディング投資による貸し倒れリスクを防ぐためには、次の3点が大切です。
- 信頼性の高い事業者を選ぶこと
- 複数の事業者と案件を組み合わせて分散投資をすること
- 担保や保証付きの手堅い案件を選ぶこと
特に、信頼性の高い事業者選びは重要です。
上場企業の傘下であることや経営方針を見ることはもちろんですが、貸し倒れや行政処分といったトラブルに対する対応能力を見ることも欠かせません。
たとえば、大手事業者の「クラウドバンク」は、過去2度の行政処分を受けていますが、その後見事に経営態勢を見直し、目立った貸し倒れ案件はありません。
投資家への情報開示姿勢も評価できますし、現時点でのおすすめ事業者のひとつと言えます。
ただ、ソーシャルレンディング業界自体が発展途上でもあり、事業者自身の多くは新興企業です。
元々元本保証はない投資なので、貸し倒れや遅延、トラブルなどのリスクは絶対にあるという前提で、下記のポイントを重視して信頼できる事業者を選びましょう!
- 貸し倒れや遅延などのトラブルを防ぐためにどのような態勢を取っているのか
⇒担保評価は適正か、情報公開の姿勢はどうか
- 万一発生してしまったとして、その理由に悪質性はないか
⇒ずさんな融資審査や資金の運用はなかったかどうか
- 万一発生してしまった場合の対応は投資家が納得できるものなのか
⇒投資家が納得できるような対処、説明はあるのかどうか
まとめ
ソーシャルレンディングの貸し倒れリスクや、貸し倒れの定義、近年の貸し倒れ実態やリスク対策についてお伝えしました。
繰り返しますが、ソーシャルレンディングは投資である以上、貸倒れや遅延による元本割れリスクは常にあります。
大切なのはリスクをふまえたうえで、
- 事業者を選ぶ
- 保全性の高い案件を選ぶ
- 分散投資する
という基本的なリスク対策を取っておくことです。
そして、事業者がうたっている「貸し倒れ件数ゼロ」という表面上の数字だけ見ないことです。
これからソーシャルレンディング業界がどうなるのか、昨年2018年から遅延が続くmaneoファミリーがどうなるのかは誰にもわかりません。
事業者の対応力に注視しながら、リスク対策も万全にしたうえでソーシャルレンディング投資をしていきましょう。
「分散投資」について正しく理解するためには、こちらの記事もしっかりと目を通しておいてください。