融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)、不動産投資型クラウドファンディングと並ぶ、金銭的なリターンを得ることができるクラウドファンディングの一つに「株式投資型クラウドファンディング」があります。
この記事では、株式投資型クラウドファンディングの特徴やメリット、また投資先を選ぶ際の注意点について解説していきます。
目次
筆者プロフィール
筆者は、第二種金融商品取引業登録事業者に勤務しています。
第二種金融商品取引業登録とはインターネット上で投資家から資金を募集する際に必要な事業登録です。
それだけに、インターネット上で資金を募集するタイプの投資についての知見を持っており、投資の際の注意点には気を使っています。
自らもインターネット上で資金を投資する・募集する立場の人間から見た株式投資型クラウドファンディングの特徴や注意点についてお伝えします。
株式投資型クラウドファンディングとは
株式投資型クラウドファンディングとは、インターネット上で上場前のベンチャー企業の株式を購入できるクラウドファンディングです。
その概要や仕組みについて解説していきましょう。
ベンチャー企業の株を購入できる
株式投資型クラウドファンディングを通してベンチャー企業の株を購入することの意味は、格安で有力なベンチャー企業の株を取得できることです。
株を購入したベンチャー企業が将来上場し、株価も連動して値上がりすれば、株を売却して大きな利益を得ることができるのです。
例えば、株式投資型クラウドファンディングで、ベンチャー企業の株を1株100円で購入したとします。
その企業が上場した時に1,000円の株価になれば、その時点で売却することで1株あたり900円(=1,000円-100円=900円)の売買益を得ることができます。
業績が良ければ株価は上昇していくため、2,000円、3,000円になればさらに大きな利益を獲得できるのです。
1企業あたり年間50万円の投資制限がある
株式投資型クラウドファンディングは、無制限に特定のベンチャー企業の株を購入できるわけではありません。
株式の大半を投資家に売却すると、ベンチャー企業にも会社の経営方針を決めることが難しくなる可能性があります。
そのため、個人が一企業に対して購入できる株式の金額には、1社あたり50万円の制限があります。
もちろん、複数の企業の株を50万円ずつ購入することは可能です。
ベンチャー企業の資金調達に使われる
ベンチャー企業は、なぜ株式投資型クラウドファンディングで自社株の購入を募るのでしょうか?
それは、金融機関以外から資金を調達できるからです。
会社を立ち上げたばかりであったり、商品の販売実績などがないベンチャー企業はたとえ有望なビジネスを展開していても、金融機関はリスク対策で一定額までしか事業資金を融資してくれないことがあります。
そこで、株式投資型クラウドファンディングで株式を売却することで、年間1億円までの資金を調達することができるのです。
日本の株式投資型クラウドファンディングサイト
2020年8月現在、日本で運営中の株式投資型クラウドファンディングサイトは、どういったサイトがあるでしょうか?
まだその数はあまり多くはないものの、有力なサイトが登場しています。
主なサイトを5つ紹介していきましょう。
株式投資型クラウドファンディングサイト
- FUNDINNO
- UNICORN
- GoAngel
- GEMSEE Equity
- イークラウド
FUNDINNO(ファンディーノ)
日本で一番運営開始が古く、そして数多くの募集実績を持つ株式投資型クラウドファンディングサイトがFUNDINNO(ファンディーノ)です。
FUNDINNO(ファンディーノ)は、2016年10月に株式投資型クラウドファンディングサイトの運営を開始しました。
2020年8月時点で、100案件近い募集実績を誇っています。
募集金額の実績は35億円以上(2020年8月17日現在)であり、日本で最も多くの投資家に利用されている株式投資型クラウドファンディングサイトです。
また、日本で運営中の株式投資型クラウドファンディングサイトでも、投資家が収益を出すことに成功しているのはFUNDINNO(ファンディーノ)だけです。
実績重視で投資先を選びたい方におすすめです。
UNICORN(ユニコーン)
FUNDINNO(ファンディーノ)に続き、2位の募集実績を持つ株式投資型クラウドファンディングサイトがUNICORN(ユニコーン)です。
UNICORN(ユニコーン)の運営元は、株式会社ユニコーンであり、その親会社は大手金融メディアを運営している株式会社ZUUです。
2020年8月17日現在、募集実績は7案件ほどです。
収益が出た事例はまだありませんが、有力な金融メディアが経営母体であるためこれからの成長に期待が高まります。
GoAngel
出典:GoAngel
GoAngelは、9案件の募集実績を持つ株式投資型クラウドファンディングサイトです。
DANベンチャーキャピタル株式会社が運営しています。
残念ながら利益を出した実績はありませんが、投資対象のベンチャー企業が上場に成功した場合には大きな値上がりを期待できるでしょう。
GEMSEE Equity
出典:GEMSEE Equity
GEMSEE Equityは、金融企業グループSBIグループが運営する株式投資型クラウドファンディングサイトです。
運営はSBIエクイティクラウド株式会社。
これまでの募集実績は1件のみであり、利益を出した実績はありません。
実績は他に劣るものの、SBIグループが運営する株式投資型クラウドファンディングサイトだけに運営元の倒産リスクは低いと言えます。
イークラウド
出典:イークラウド
イークラウドは、2020年7月に運営を開始した最も新しい株式投資型クラウドファンディングサイトがです。
イークラウド株式会社が運営しており、大和証券グループの傘下企業から出資を受けています。
運営開始したばかりのサイトであるため、募集実績はまだ1件です。
大和証券グループという強固なバックボーンがあるため、さまざまな企業とのネットワークを持つのが強みです。
多様な案件の募集が行われることに期待しましょう。
株式投資型クラウドファンディング投資を利用するメリット
投資家にとって、株式投資型クラウドファンディング投資を利用するメリットにはどういったものがあるでしょうか?
次の4つがメリットだと言えるでしょう。
メリット
- 大きな売買益を狙える
- M&Aによる株式譲渡でも利益が出る
- 株主優待を受け取ることができる会社もある
- エンジェル税制を利用できるサイトもある
大きな売買益を狙える
株式投資型クラウドファンディング投資は、通常の上場済みの企業の株式投資よりも大きな利益を狙うことができます。
例えば、上場済みの企業の場合は一気に株価が値下がりしない限り、格安で株を購入することはできません。
しかし、1,000円の株が100円まで値下がりするような場合は、経営において相当危険な状態です。
格安で株を購入しようとすると大きなリスクが伴います。
株式投資型クラウドファンディングであれば、上場前の株価で株を購入できるため、経営状態に問題があって格安という理由ではなく、格安で株を購入できます。
また、ベンチャー企業の場合はビジネスが成功すれば、株価が一気に上昇する可能性があります。
上場済み企業の株式投資の場合、株価10倍という大きな値上がりはめったにありません。
しかし、株式投資型クラウドファンディングであれば10倍の値上がりも期待できます。
M&Aによる株式譲渡でも利益が出る
株式投資クラウドファンディングサイトは、ベンチャー企業が上場しないと利益が出にくいです。
日本で運営中の株式投資型クラウドファンディングサイトでは、ベンチャー企業が株式上場に成功した実績はありません。
では、まったく金銭的なリターンが得られないのでしょうか?
実は、決してそういうわけではありません。
ベンチャー企業が企業合併&買収、いわゆる「M&A」で他の有力な企業に買収されれば、そのタイミングで自社の株を売却することが多いです。
その場合、投資家の株もその買収先の企業に買取譲渡されます。
買取譲渡では、ベンチャー企業が投資家に売却した株価よりも高い値段で買われます。
そのため、M&Aで株式譲渡が行われれば、投資家は利益を得ることができるのです。
FUNDINNO(ファンディーノ)では、M&Aによる株式譲渡が行われた実績が2件あります。
いずれも、投資家に対する売却価格の1.5倍での株式譲渡が行われ、投資家は購入金額に対する1.5倍の利益を得ることに成功しています。
株主優待を受け取ることができる会社もある
株式投資型クラウドファンディングで株を購入すれば、上場企業の株式投資と同じように、株主優待を受け取ることが可能です。
株主優待とは、企業が自社の株を購入した人に対し、サービスや商品の提供といった金銭以外のリターンを提供することを指します。
ベンチャー企業の中でもさまざまな商品開発実績を持つ会社では、投資家に対してその商品を提供する会社もありますし、クオカードなどのギフト券を提供している会社もあります。
株を買うだけでリターンを得ることができるのです。
エンジェル税制を利用できるサイトもある
株式投資型クラウドファンディング投資を行うことで、節税できることもあります。
それが「エンジェル税制」です。
エンジェル税制とは国の制度であり、有望な未上場企業への出資を行うことでその投資したお金が所得から控除されるという仕組みです。
国が指定したエンジェル税制対象企業への投資資金は確定申告することで、所得から控除され、所得税や住民税の還付を受けられます。
FUNDINNO(ファンディーノ)では、累計で37案件のエンジェル税制対象企業案件の募集を行っています。
投資による直接的な利益ではありませんが、税金が還付されることで手元の現金をを増やせます。
株式投資型クラウドファンディング投資のリスク・デメリット
株式投資型クラウドファンディング投資は大きなリターンを期待できるものの、リターンが大きいだけに等しくリスクやデメリットも大きいです。
投資前には、株式投資型クラウドファンディング投資のリスクやデメリットについても詳しく知っておきましょう。
リスク・デメリット
- 上場しないと利益が出にくい
- 投資した会社が倒産する可能性がある
- 購入できる金額に上限がある
- 購入後に現金化することができない
- 実績のあるサイトが少ない
上場しないと利益が出にくい
株式投資型クラウドファンディング投資は、株を購入した企業が上場しない限り基本的には利益が出ません。
先に説明したようにM&Aによる株式譲渡でも利益が出ますが、購入額の1.5倍と、それほど大きな金額ではないのです。
日本で、株式投資型クラウドファンディングサイトで投資家に利益が出た実例は、FUNDINNO(ファンディーノ)の募集企業の株式譲渡による2件だけです。
上場による株の値上がりで莫大な利益を手にした投資家は、まだいないのです。
もちろん、日本で株式投資型クラウドファンディング投資が開始されてから、まだ3年ほどしか経っていないことも実績が少ない理由と言えます。
短期での上場はなかなか発生しないため、投資してから5年~10年待たなければいけないことも多いです。
長期的に待つことができる人向けの投資と言えるでしょう。
投資で短期的に利益を出したい人は、上場企業の株を購入を検討した方が良いと言えます。
投資した会社が倒産する可能性がある
株式投資型クラウドファンディング投資で株を購入した企業が倒産する可能性もあります。
実際、株式投資型クラウドファンディングで資金を募集した企業が、1社倒産した実例があります。
その案件では、投資家は投資した金額の全額ではないものの、一部損失を被りました。
株式投資と同じように、投資先の企業の倒産リスクが存在するのです。
購入できる金額に上限がある
株式投資型クラウドファンディングでは1社あたり購入できる金額は、50万円の制限があります。
非常に有望なビジネスで応援したいと思う企業があっても、その企業の株を何千万円も購入することはできません。
50万円までしか購入できないため、利益にもある程度の上限があります。
購入後に現金化することができない
株式投資型クラウドファンディングで購入した株式は、企業に買い取ってもらう事ができません。
そのためm現金化したくても自由に現金化できないのです。
もし現金化したい場合は、自分で株式を買い取ってくれる投資家を探すしかありません。
実績のあるサイトが少ない
再三お伝えしているように、日本ではまだ株式投資型クラウドファンディングで資金募集を行った企業が、株式上場に成功した実例がありません。
そもそも、投資家への利益を提供できた実績を持つサイトもFUNDINNO(ファンディーノ)のみです。
FUNDINNOでも、100件弱の募集で利益を出すことができた案件は2件だけです。
利益を出せる可能性がわずかでしかないことは、承知しておきましょう。
もちろん、購入から数年すれば成長する企業も出てくるため、これから先株式譲渡による利益発生や、上場にする企業が続々と出る可能性は十分にあります。
事業者にとってのメリット・デメリット
ベンチャー企業にとって、株式投資型クラウドファンディングはどういったメリットやデメリットがあるのでしょうか?
最後に、資金調達側のメリット・デメリットを整理しておきましょう。
【メリット】資金調達が可能
最も大きなメリットは、金融機関以外から資金調達をできることです。
金融機関から借りたお金は返済の義務がありますが、株式投資型クラウドファンディングでの資金調達は株の売却なので、資金返済の必要がありません。
資金繰りに悩むベンチャー企業にとって、株の譲渡で1億円もの資金を募集できる点は大変にありがたいものです。
そして、集まった1億円の資金は融資ではないため、返済する必要がありません。
ベンチャー企業にとってはリスクの低い資金調達手段です。
【メリット】ファンの獲得や認知度上昇を期待できる
株式投資型クラウドファンディングで投資家から資金を募集することで、自社の業務やサービス内容を多くの投資家に知ってもらえるメリットがあります。
自社のビジネスに注目してもらうことで、ベンチャーキャピタルなどへのアピールすることもできます。
個人投資家に対して株主優待を提供することで、自社の商品やサービスを知ってもらい、売上アップにつなげるというマーケティング施策としても活用できるのです。
【デメリット】必要な資金を常に集められるわけではない
デメリットは、募集しても必ず満額が集まるわけではない点です。
株式投資型クラウドファンディングサイトで資金を募集しても、ビジネス内容が投資家にとって魅力のないものであったり、株式上場が期待できない企業ではなかなか資金が集まらないこともあります。
企業にとって確実性のある資金調達手段ではないと言えます。
【デメリット】1億円までしか募集できない
株式投資型クラウドファンディングで資金調達を行う金額は、年間1億円という制限が定められています。
その制限を超えた株式の売買は行うことができません。
ベンチャー企業でも、ビジネスの規模によっては1億円では資金が不足することもあるでしょう。
あくまでも株式投資型クラウドファンディングでの資金調達は補助的なものなのです。
まとめ
株式投資型クラウドファンディングは、ベンチャー企業の株を上場前の格安の価格で購入するため、株価次第で莫大な利益を期待することができます。
しかし、日本ではまだ上場実績がないため、これから先の成長に期待がかかる投資方法だと言えます。
それでも徐々に実績も増えていますし、「株主優待」や「エンジェル節税」といったメリットもあります。
投資するときは、毎月一定のインカムゲインを得られる「不動産投資型クラウドファンディング」や「ソーシャルレンディング」と併用することで、リスクヘッジしてみても良いでしょう。
株式投資型クラウドファンディングに興味を持った方は、運営サイトに登録し投資案件の特徴を詳しく研究してみてはいかがでしょうか?