貯蓄率の減少、所得の伸び悩み、少子高齢化による年金状況の悪化などにより、日本の個人の家計は厳しい状況が続いています。
このような中、「貯蓄から投資へ」や「貯蓄から資産運用へ」という考え方が重要になってきました。
しかしながら、投資の習慣がない人にとって「貯蓄から投資へとは何?」「どういう投資をすれば良いの?」という点は気になりますよね。
今回は貯蓄から投資への内容とメリットやおすすめの投資方法について解説します。
筆者プロフィール
大学卒業後、外資系生命保険会社で、個人向け・中小企業向け生命保険の販売を行い、特に個人向けの生命保険は相談実績は200件以上という実績を持っています。
マネー系の記事を中心に執筆するフリーライターや資産運用のコンサルティングを行っています。
10年以上不動産投資、株式投資、FXなどの資産運用をしており、マネー系の知識には精通していています。
保有資格はファイナンシャルプランナー2級、証券外務員一種です。
「貯蓄から投資へ」とは
「貯蓄から投資へ」とは、現預金などの貯蓄を株式投資や投資信託、ソーシャルレンディングなどの投資に促すことを言います。
まずは、貯蓄から投資へとはどのようなものなのかについて具体的に解説していきます。
2001年に政府が打ち出したスローガン
貯蓄から投資へという言葉は2001年に政府がかかげたスローガンです。
簡単に説明すると、銀行預金や現金で貯蓄するのではなく、株式投資や投資信託で投資しようということです。
政府は貯蓄から投資への流れを進めるためにさまざまな政策をとってきました。
代表的な政策に下記のものがあります。
2003年 | 上場株式に対する優遇措置 | 上場株式の売却益や配当益に対する課税が20%から10%へ低減 |
---|---|---|
2014年 | NISA | 一定の金額まで株式投資の売却益や配当が非課税になる |
2018年 | iDeCo | 所得控除や運用益が非課税になる資産運用型の確定拠出型年金の導入 |
このように、投資に関してさまざまな優遇をすることで、政府は貯蓄から投資への流れを推進してきたのです。
政策を打ち出した背景
政府が貯蓄から投資へのスローガンを打ち出した背景には、日本人の投資が進んでいなかったことが挙げられます。
実際に金融庁が公開している「平成28事務年度 金融レポート」を見てみましょう。
1995年のアメリカの家計金融資産のうち、株式・投資信託の占める割合は25.1%
1995年の日本の家計金融資産のうち、株式・投資信託の占める割合は9.6%
このように、日本人の株式・投資信託などの投資に回している金額がアメリカと比較すると低かったため、問題視されていました。
株式・投資信託の占める割合が低いと、お金の循環が悪くなるからです。
お金の循環が悪いと経済の循環も悪くなるため、景気にとって悪影響になります。
そのため、政府は景気を活性化させる一つの方法として貯蓄から投資へというスローガンを導入したのです。
2016年に貯蓄から資産形成に
2016年に「貯蓄から投資へ」のスローガンは「貯蓄から資産形成に」へと変更になりました。
スローガン自体は変わっていますが、内容自体はほぼ同じです。
ただし、短期的な「株式投資」や「投資信託」を重要視するのではなく、長期的に資産を増やしていくことを重要視したという点においては「貯蓄から投資へ」とは異なります。
現在、日本の貯蓄率は減少傾向にある一方で、高齢化が進んでいます。
老後の資金が足りなくなる可能性が高く、金融庁の市場ワーキング・グループの報告書では、老後の資金は2,000万円不足するとの報告書を公表しました。
低金利化でほとんど増えない現金や預金で貯蓄するよりも、運用益が期待できる株式や投資信託などで資産形成をしていくことは、今後重要となってくると言えるでしょう。
「貯蓄から投資へ」の現状は失敗
残念ながら、現状では「貯蓄から投資へ」という流れを作ろうとした政府の政策は2020年現在失敗していると言わざるを得ないでしょう。
貯蓄率がスローガンを打ち出す前とほぼ変わっておらず、依然として高い現金・預金比率となっているからです。
ここでは、次の2点について解説していきましょう。
「貯蓄から投資へ」について
- 貯蓄から投資へが失敗している理由
- 貯蓄から投資が進まないことによる問題点
依然として50%以上が貯蓄に回る
日本では依然として金融資産の50%以上が貯蓄に回っています。
日本銀行の資料である資金循環の日米欧比較を見てみましょう。
2019年3月末の時点で日本の家計金融資産の割合は下記のとおりとなっています。
現金、預金 | 53.3% |
---|---|
保険、年金、定型保証 | 28.6% |
株式など | 10.0% |
投資信託 | 3.9% |
債務証券 | 1.3% |
その他 | 2.9% |
金融庁の「平成28事務年度 金融レポート」によると、スローガンを打ち出す前の1995年3月時点では下記のとおりとなっていました。
現金、預金 | 55.7% |
---|---|
保険、年金、定型保証 | 27.2% |
株式など | 6.8% |
投資信託 | 2.8% |
その他 | 7.4% |
つまり、25年経過しても現金・預金の比率はわずか2.4パーセントしか減少しておらず、株式は3.2パーセント、投資信託は1.1パーセントしか増加していません。
政府は貯蓄から投資への流れが進むようにあらゆる政策をしてきましたが、残念ながら全く結びついていないということが言えるでしょう。
貯蓄から投資が進んでいるアメリカとは資産で大きな差が出ている
貯蓄から投資の流れが進んでいるアメリカのデータを見てみましょう。
金融庁の「平成28事務年度 金融レポート」によると、アメリカの家計の金融資産の総額と割合は下記のとおりでした。
【1995年】金融資産の総額:2,343兆円
現金、預金 | 13.0% |
---|---|
保険、年金、定型保証 | 32.0% |
株式など | 19.8% |
投資信託 | 5.3% |
その他 | 30.0% |
【2016年】金融資産の総額:8,821兆円
現金、預金 | 13.7% |
---|---|
保険、年金、定型保証 | 31.3% |
株式など | 21.0% |
投資信託 | 9.1% |
その他 | 24.8% |
アメリカは、現金・預金の比率がわずか13パーセント前後にとどまっており、なおかつ株式投資・投資信託の割合は2016年時点で30パーセントを超えています。
その結果、20年でアメリカの金融資産は4倍近くにも増えました。
一方で、貯蓄から投資の流れが進んでいない日本の金融資産の総額は1995年時点で1,182兆円、2016年の時点で1,815兆円と1.6倍ほどしか増えていません。
つまり、貯蓄から投資の流れが進んでいるアメリカは順調にお金を増やし続け、進んでいない日本はあまりお金が増えていないということです。
このことから、投資は長期的に見ると現金・預金よりも投資の方がお金が増やしやすいということは明確でしょう。
それでは、なぜ投資はお金が増えやすいのに、日本では貯蓄から投資の流れが進まないのでしょうか?
原因について解説していきましょう。
日本で貯蓄から投資への流れが進まない理由
日本で貯蓄から投資への流れが進まない理由は様々ですが、代表的な理由は下記の2点です。
日本で貯蓄から投資への流れが進まない理由
- 投資に対してネガティブな印象があるから
- 年金があり将来の備えが必要ないから
それでは、具体的に解説していきます。
理由①:投資に対してネガティブな印象があるから
投資に対してマイナスの印象が強いことが貯蓄率の高い原因の一つです。
ネガティブの印象が強くなった原因は、バブル崩壊やライブドア事件、ITバブル崩壊、リーマンショックなど投資に対して悪いニュースが続いたことです。
特に、バブル崩壊からの株価下落幅は大きく、マイナスの印象が強かったと言えるでしょう。
実際、バブル時の日経平均株価の最高値は38,957円だったものの、その後は下落を続け2008年には6,994円90銭まで下落しています。
約82パーセントもの下落率となっており、「株は怖い」「株はギャンブル」のようなマイナスの印象がついたものと思われます。
しかし、アメリカの例をみてわかるとおり、投資は長期的に見れば家計にとってプラスに働く可能性が高いです。
マイナスの印象があるからといって、イメージだけで投資を止めてしまうのは非常にもったいないと言えるでしょう。
理由②:年金があり将来の備えが必要ないから
日本には年金制度があり将来の備えが不要だったため、資産形成に積極的ではないということも投資が進まない理由の一つです。
かつては100年安心と呼ばれており、老後も豊かに暮らせるというものでした。
しかし、少子高齢化により年金保険料を収める人が少なくなっているため、年金が将来減額される可能性が高いです。
金融庁が提出したレポートでは、年金だけでは将来2,000万円足りなくなるといわれています。
「年金があるから資産形成をしない」という考え方は今後非常に危険になってくると言えるでしょう。
これらから、今後貯蓄から投資にしていくことは必要な流れであると言えます。
貯蓄から投資にすることで具体的にどのようなメリットがあるのか、次の章で解説していきます。
貯蓄から投資へ移行するメリット
貯蓄から投資にするするメリットは次の3点があります。
具体的に解説していきましょう。
貯蓄から投資へ移行するメリット
- 利回りが高い
- インフレに強い
- マネーリテラシーが上がる
メリット①:利回りが高い
投資は、現金・預金と比較すると圧倒的に利回りが高いです。
30歳から毎月4万円ごと60歳まで積み立てるケースを金融庁の資産運用シミュレーションで確認していきましょう。
ピン運用別の資産運用シミュレーション結果 |
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このように、同じ4万円を積み立てるケースでも、投資で利回り5パーセントで運用した場合では、メガバンクに貯金した場合(利回り0.001パーセント)よりも最終的に2,000万円ほど上回ることがわかります。
保全性の高い投資で運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と同じ利回りでも、現金・預金よりも800万円も上回ります。
このように長期的に見ると投資の方が現金・預金よりも圧倒的に利回りが高いことがわかります。
メリット②:インフレに強い
インフレに強いことも投資のメリットです。
インフレとは物価が上昇し、現金・預金の価値が下がることを言います。
物価が上がると企業の業績は良くなり、配当金の増額や株価の上昇に期待ができるため、投資はインフレに強いという特徴があります。
日本は長年デフレに苦しんできましたが、近年では日本銀行が物価2パーセントを目指して金融緩和しています。
そのため、物価や株価が上昇しており、現金・預金の価値が下落しています。
このようにインフレが起こったとき、投資をしておくことで、資産を目減りさせないで済む可能性が高くなります。
メリット③:マネーリテラシーが上がる
マネーリテラシーが上がることで、お金を効率良く貯めることができます。
マネーリテラシーとは、お金に関する情報を上手に活用できる能力のことを言います。
つまり、株式投資やソーシャルレンティング、生命保険など様々な金融商品の性質を理解し、自分に適したお金の使い方ができる能力ことです。
日本は、先進国の中でもマネーリテラシーが低いという問題点があります。
実際にS&Pの調査をベースにした国別ファイナンシャルリテラシーへの考察という論文を見てみると、主要先進国G7の中で日本は7ヶ国中第6位という結果でした。
学校などでお金について学ぶ機会もないため、当然の結果かもしれません。
マネーリテラシーを向上させるために、効率的な方法は自分で投資をしてみることです。
投資をしていくことで、金融商品の特性を学ぶことができるためです。
マネーリテラシーがなければ、いくら頑張って働いてもお金は貯まりにくいままです。
効率的にお金を貯めるのに必要なマネーリテラシーを高くすることができるというのも、投資の大きなメリットと言えるでしょう。
貯蓄から投資でおすすめしたい資産形成の方法
貯蓄から投資でおすすめしたい資産形成の方法は次の5つです。
おすすめしたい資産形成方法
- つみたてNISA
- iDeco
- ソーシャルレンディング
- 不動産投資型クラウドファンディング
これらの資産形成がおすすめの理由は次の3点です。
おすすめの理由
- 過度なリスクを取らないため安定的な運用ができる
- 簡単に始めることができる
- 手数料が安い
長期的に資産形成ができるおすすめの方法です。
各々特徴について具体的に解説していきましょう。
つみたてNISA
つみたてNISAとは20年間、株式投資や投資信託を年間の上限40万円として非課税で運用できる仕組みです。
長期的に分散して積み立てができるため、長期的な資産形成には最も適している制度と言えるでしょう。
つみたてNISAのメリットには、通常20パーセントの運用利益が非課税になる、少額からも投資が可能という点があります。
毎年少額ずつでも積み立てすることで、20年後に大きな運用益になっている可能性があります。
一方で、つみたてNISAのデメリットには、国が選定した金融商品しか購入できないという点があります。
とはいえ、国が選定した金融商品はいずれも長期的・分散投資に向いています。
投資初心者の方にとっては、わざわざ自分で商品を選択しなくても良いため、逆にメリットにもなることもあり得るでしょう。
また、つみたてNISAには損益通算ができないというデメリットもあります。
損益通算とは一般の証券の課税口座とNISA口座の損益を合わせることができない仕組みです。
例えば、通常の証券口座で利益が30万円出て、NISA口座で損失が10万円だった場合、損益通算ができないため30万円の利益に対して課税されます。
NISA口座の損失10万円を通常の証券口座の利益から差し引くことができないという点は注意しましょう。
つみたてNISAは毎年コツコツ貯めたい人、投資初心者の人に適した資産形成の方法だと言えます。
長期的に分散投資するため、リスクはさほど高くはありません。
長期的な観点で資産形成をしたい人におすすめしたい投資方法です。
iDeCo
iDecoは毎月積み立ての私的年金制度です。
自分で金融商品を選んで投資し、60歳になったときに積み立てたお金をもらえる仕組みです。
iDeCoは通常20パーセント課税される運用益が非課税となっています。
そのため、株式投資や投資信託よりも手元にお金が残りやすいというメリットがあります。
また、掛金も全額所得控除されるため、税制面では非常に優遇されている制度と言えます。
iDeCoのデメリットとして挙げられるのは原則として60歳まで途中の解約はできないという点です。
そのため、年金目的の投資ではない場合はあまりおすすめできません。
iDeCoは年金を積み立てておきたい人、税金負担が大きい人に適した投資方法です。
長期的な資金は拘束されるものの、税制面でのメリットは非常に大きいものとなります。
老後の2,000万円を補うのに、最も適した制度と言えるでしょう。
ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングは出資者が企業にお金を貸し、企業は借りたお金で利益を出して、出資者に還元する仕組みです。
ソーシャルレンディングは利回りが高く、少ない資金からも投資を始めることができ、配当金が安定してもらえるというメリットがあります。
利回りが10パーセントを超える案件も少なくありません。
また、1万円から投資を始めることもできるため、気軽に始めることができます。
ソーシャルレンディングのデメリットとして挙げられることは、途中解約ができない点です。
とはいえ、期間は半年から3年ほどなので、そこまで長いというわけではありません。
つみたてNISAやiDeCoと比較すると短い投資期間なので、メリットとも言えます。
ソーシャルレンディングは高い利回りを狙いたい人、少ない資金から投資を始めたい人、投資初心者の方におすすめしたい投資方法です。
ソーシャルレンディングがおすすめの理由はこちらに詳しく記載されています。
少しでも興味を持った方は、一度目を通しておくと良いでしょう。
不動産投資型クラウドファンディング
不動産投資型クラウドファンディングは、出資者が企業にお金を貸し、企業が不動産に投資して得た利益を出資者に配当を出す仕組みです。
ソーシャルレンディングと仕組みは似ていますが、投資先が不動産と限定されている点において異なります。
不動産型クラウドファンディングは高い利回りが狙える、少ない資金から投資を始められる、投資先は不動産という資産性が高いもの、投資先の情報が明確であることが多いという4点があります。
一般的な投資の場合、その会社が何に対して投資して運用しているのか具体的にわからないという点から不安に思う方も多いかと思います。
しかし、不動産投資型クラウドファンディングの場合は投資先が不動産と限定されているため、非常にわかりやすいです。
高い利回りが狙いやすく少額からでも投資できるため、お試しの投資という点でもおすすめできます。
一方で、実際の不動産投資と異なり、融資は利用できないというデメリットもあります。
資産がないけれどもリスクを取って大きな収入を目指したいという方には不向きと言えるでしょう。
不動産型クラウドファンディングは高い利回りを狙いたい人、不動産投資の情報に詳しい人、少ない資金から始めたい人に向いています。
また、不動産投資未経験の方でも、今後不動産投資をやってみたいという場合、不動産投資の最初の一歩としてもおすすめできる投資方法です。
こちらに詳しく解説されているので、一度目を通してみることをおすすめします。
まとめ
「貯蓄から投資へ」の内容やメリット、おすすめの投資先について解説してきました。
インフレが進む一方で、少子高齢化により年金の受給額が減少しており、先行きが不安な状況が続いています。
今後、貯蓄から投資へと資産構成を移していき、将来に備えることは必須と言えるでしょう。
とはいえ、最初は何からはじめれば良いかわからないという方も多いかと思います。
まずは、少額から投資することができ、高い利回りも期待できる「ソーシャルレンディング」や「不動産投資型クラウドファンディング」からはじめてみることをおすすめします。