目次
2019年現在のソーシャルレンディング業界の課題
2020年のソーシャルレンディング業界を予測するために、まず2019年末時点のソーシャルレンディング業界が抱えている問題を確認しましょう。
課題①:案件数の不足による投資熱の加速
2019年現在、ソーシャルレンディングの案件を投資家に定期的に提供できている会社は、SBIソーシャルレンディングやCrowd Bank(クラウドバンク)を含め、10社ほどです。
中小のソーシャルレンディング会社を含め、どの事業者も案件の募集を始めると短時間で募集金額上限に達してしまうケースが多いです。
毎月数億円の募集を行っていたmaneoが募集停止に陥ったことで、その資金が他のソーシャルレンディング会社に流れているとみられます。
案件数は慢性的に不足しており、投資したくても募集開始時間にインターネット環境に接続できる人でないと、ソーシャルレンディングの投資ができない状態が続いています。
OwnersBook(オーナーズブック)やFunds(ファンズ)では、投資にあたり抽選制度を導入していますが、これも投資したいのに投資できないという問題の、根本的な解決には至っていません。
少ない案件を投資家が奪い合う状態が続いています。
課題②:不動産案件や太陽光案件が多い
案件の大半を占めるのは、不動産会社への融資案件、そして太陽光発電事業案件です。
業界大手のSBIソーシャルレンディング、クラウドバンク、OwnersBookの案件は、大半がこの2種類の案件です。
不動産案件の場合、不動産が担保となり、担保の信用性が高いため投資家への人気があります。
反面、不動産案件への集中投資は、不動産市況の変動により一気に損失が発生する可能性を含みます。
また、太陽光発電事業への融資は電力買取制度の終了や買取価格の下落により、返済されなくなるリスクはゼロではありません。
投資家としては、不動産・太陽光以外の案件も数が増えることが望まれるでしょう。
課題を踏まえたソーシャルレンディング会社の動向
ここで挙げたソーシャルレンディング業界が抱える問題に対して、現在各ソーシャルレンディング会社はどのような対策を取っているでしょうか?
動向①:利回りより安全性を重視
2019年は、ソーシャルレンディングの安全性が抜本的に見直された年だったと言えます。
そのきっかけは、2019年3月の金融庁の匿名化解除の発表です。
匿名化解除により、ほとんどのソーシャルレンディング会社で融資先の企業名を公開する動きが見られました。
投資家としては、利回り10パーセントを超えるような返済リスクの高い案件だけではなく、利回りが低くても高い投資の安全性が確保できる案件に人気が集中する傾向が見られます。
情報開示を進めるにとどまらず、返済リスクを下げるために貸付金利の見直しを図るソーシャルレンディング会社が増えているのです。
動向②:投資対象が多様化
投資対象の多様化も、一部ですが進んでいます。
Fundsでは、投資案件の「オンラインマーケット」と称し、飲食店の開店費用など、不動以外の事業資金案件も積極的に提供しています。
LENDEX(レンデックス)では、格闘技イベントRIZINの運営資金ファンドの募集を行っており、エンターテインメントイベントという新分野への融資案件が登場しています。
このように案件の多様化が進めば、「投資先の分散=リスク分散」をより手軽に行えるようになるでしょう。
動向③:海外案件の増加
国内だけではなく、海外の案件を取り扱うソーシャルレンディング会社が増えています。
クラウドバンクやOwnersBookといった大手のソーシャルレンディング会社では、海外不動産案件を取り扱っています。
ZUUに事業譲渡を行いましたが、COOL(クール)では在日外国人運営企業のよる、アジア融資案件を専門としていました。
海外案件に先鞭をつけたCrowd Credit(クラウドクレジット)も順調に業績を伸ばしています。
2020年のソーシャルレンディング業界の展望
こういった2019年の現状を踏まえて、2020年はソーシャルレンディング業界はどのように変わっていくでしょうか?
クラウドアンサー編集部独自の見解をまとめてみました。
展望①:新規ソーシャルレンディング会社の登場
2019年に第二種金融商品取引業登録を行い、インターネット上での資金募集を行う事業を展開したのはFundsとCOOLの2社です。
Fundsは自社の事業をソーシャルレンディングと称してはいないですが、第二種金融商品取引業によって資金を集める事業として、ここでは便宜上ソーシャルレンディング会社とします。
新規の会社は2社と多くはありませんでしたが、まだまだソーシャルレンディング事業の需要はあるもの見られます。
事業開始には2つの事業登録が必要
では、なぜ新規ソーシャルレンディング会社が現れにくいのでしょうか?
それは、ソーシャルレンディング事業に必須である「第二種金融商品取引業登録」が、金融庁のチェックにより難しくなっているからです。
金融庁としては、ソーシャルレンディング会社で数々のトラブルが起きたことを看過せず、新規登録を目指す事業者に対して審査体制や資本力、人員のチェックなどの審査を厳しくしています。
ソーシャルレンディング事業には「貸金業登録」も必要ですから、この2つの事業登録に時間がかかることが、新規ソーシャルレンディング会社登場の障害になっているのです。
ソーシャルレンディング会社の買収
それでも、ソーシャルレンディング市場に魅力を持つ会社はあります。
大手総合商社である伊藤忠商事株式会社の関連会社がソーシャルレンディング関係の会社に積極的に出資をしているように、日本のソーシャルレンディング市場は成長の余地を大きく残しているからです。
ソーシャルレンディング業界の市場規模は、2018年で1,500億円ほど、2019年は1,800億円から2,000億円前後になると見られます。
ただし、2,000億円程度ではREIT(不動産投資信託)や株式市場、FX、不動産投資市場と比べればまだまだ規模は非常に小さいです。
2020年はZUUのように、自分たちが新しく第二種金融商品登録業登録を行うのではなく、第二金融商品取引業登録済みの会社を買収してソーシャルレンディング事業に臨む会社が現れるでしょう。
展望②:ソーシャルレンディングの業界を挙げた取り組みが行われる
ソーシャルレンディングの知名度は、まだまだ低いです。
Googleトレンドの検索結果をご覧ください(Googleトレンドとは、ある語句がGoogleにおいてどれほど検索されているのかをグラフで見ることができるツールです)。
「ソーシャルレンディング」という語句の検索数は、2019年に入りやや低迷しています。
出典:Googleトレンド
SBIソーシャルレンディングでは、「ソシャレン」という愛称を定着させようとしています。
しかし、Fundsでは「オンラインマーケット」という独自の呼称を用いています。
ソーシャルレンディング会社が相次いで行政処分を受けたことから、「ソーシャルレンディング」ということばにはネガティブな印象があるとも考えられます。
総称としては「貸付型クラウドファンディング」ということばもありますが、
- 第二種金融商品取引業登録事業者がインターネット上で資金を募集する
- 集めた資金を貸金業法に乗っ取った融資を実行し、投資家には貸付金利を分配する
この特徴を備えた投資手法の総称が、新たに必要になるかもしれません。
そして、何より必要だと考えられることは、ソーシャルレンディングの業界団体の登場です。
業界団体が生まれることで、業界を挙げた安全性への取り組みや広報活動ができるようになります。
個人投資家に対し、ソーシャルレンディングの知名度を上げるような広報イベントを開催したり、自浄作用を持たせるために融資に関する自主規制などの動きが生まれるといった効果が期待できます。
業界をあげての取り組みができないままでは、各ソーシャルレンディング会社の独自の取り組みに依存する体制が続くだけです。
ソーシャルレンディングという投資手法の信用性と認知の上昇を狙うのは、難しいままでしょう。
展望③:診療報酬債権絡みの案件が増える
投資家の「安定性の高い案件が増えて欲しい」「利回りは1パーセントから2パーセントでは意味がない。少なくとも利回り3パーセントから5パーセントは欲しい」という要望に応えるべく、今後案件の増加が予測されるのが、診療報酬債権絡みのソーシャルレンディング案件です。
診療報酬債権とは、医療機関の保険料のシステムに伴う債権です。
医療機関は、医療行為を行うとまず患者から治療費を受け取ります。
しかし、本来医療機関に支払われる治療費の大半は、保険料から捻出されます。
医療行為を行っただけでは、医療機関は10パーセントから30パーセントからの医療費しか受け取ることができません。
翌月や翌々月になって、ようやく公的な医療保険から残り70パーセントから90パーセントの診療報酬を受け取ることができるのです。
そのため一定期間、医療機関は現金ではなく公的な医療保険の運営元に対する債権を保有しているのです。
しかし、医療機関も人件費や維持費、機材や薬品の購入費のために現金が必要な事態は多々あります。
そこで、この債権を現金化する手段としてソーシャルレンディングが利用されるのです。
さくらソーシャルレンディングでは、実際に診療報酬債権のソーシャルレンディング案件を取り扱っていました。
融資先は医療機関ですが、医療機関が公的な医療保険の運営元から診療報酬を貰えれば無事返済されます。
融資先、診療報酬の支払元ともに公共性の高い機関なので、返済リスクは低いと言えます。
診療報酬債権関係のソーシャルレンディング案件は、投資家にとって魅力的な投資先になる要素を持っています。
投資家を確保したいソーシャルレンディング会社としても、狙い目の案件と言えるでしょう。
まとめ
ソーシャルレンディング業界は、2019年に激動の1年を迎えました。
金融庁の情報開示方針が通達され、ほぼすべてのソーシャルレンディング会社で融資先の情報開示が行われるなど、改革が進んでいます。
その結果、投資の安全性は向上しましたが、案件の多様性の面では改善の余地があると言えます。
それと同時に、ソーシャルレンディングの業界としての存在感を増していくためには、各ソーシャルレンディング社の連携による取り組みが必要になるのではないでしょうか?
日本のソーシャルレンディング投資市場の規模はまだ小さく、市場の成長の余地は十分にあります。
さまざまな意味での安全性確保および業界をあげた認知度上昇の取り組みが行われるようになれば、ソーシャルレンディングの健全化と市場拡大につながっていくでしょう。
クラウドアンサー編集部では、ソーシャルレンディングの変遷について独自の見解で分析しています。
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