2013年~2016年頃の日本におけるソーシャルレンディングの位置づけ
2008年のmaneo(マネオ)、2011年のSBIソーシャルレンディングと、2019年11月末現在でも業界の第1位と第2位の募集金額を誇るソーシャルレンディング会社2社は、ソーシャルレンディング黎明期に立ち上がりました。
そして、徐々にソーシャルレンディングの知名度も上がっていき、2013年から2016年にかけては数多くのソーシャルレンディング会社がソーシャルレンディングサイトの運営に乗り出しました。
ソーシャルレンディングの「最初の発展期」と呼べるのが、2013年から2016年なのです。
ソーシャルレンディングのメディアへの露出
この時期は、maneoがソーシャルレンディングプラットフォームの立ち上げを行い、そのシステムを利用したソーシャルレンディング会社が続々と現れました。
その数は、最終的に10社以上となりました。
同時に、ソーシャルレンディングという投資手法が一般の雑誌や各種のWebメディアでも徐々に取り上げられるようになりました。
市況的にもリーマンショックの傷が癒え、2013年からは不動産価格の上昇が起こり、そしてマイナス金利制度の導入などから個人・法人を問わず不動産投資が上向きになっている時期と一致します。
その不動産業界の影響を受けてか、不動産関係の融資案件が増加していきます。
また、太陽光発電の買取制度もまだ活発な時期でした。
「太陽光発電」「不動産」というソーシャルレンディング案件の2本柱が確立した時期がこの時期だと言えます。
そして、個人投資家にとっては、不動産投資よりも手軽でかつ高利回りということもあってか、年間10パーセント以上の利回りが期待できる投資手法として、日経新聞や朝日新聞など有力な媒体に取り上げられるようになりました。
ソーシャルレンディング事業を行う会社の増加とともに、ソーシャルレンディングが一つの業界として徐々に世間に認知されるようになってきたのは、この時期だと言えるでしょう。
金利が高い案件を提供する会社の登場
この時期のソーシャルレンディング業界を今振り返ると、今のソーシャルレンディング業界への功罪は大きかったと言えます。
その中でも、罪の象徴は10パーセント以上という、非常に高い利回りを提供するソーシャルレンディング会社の登場です。
- みんなのクレジット
- グリーンインフラレンディング
- ラッキーバンク
- クラウドリース
といったように、10パーセント以上の案件を扱っていたソーシャルレンディング会社はいずれも2015年~2016年付近にソーシャルレンディングサイトの運営を開始しています。
これは、maneoやSBIソーシャルレンディングが一定の投資家を獲得し、ソーシャルレンディングという投資手法が認知されたことから、これらの会社がソーシャルレンディングを使った資金集めに着目していたと言えなくもありません。
投資家にとっては、当然利回りが高い案件は人気があります。
そして、この時期はまだソーシャルレンディング会社の中で貸し倒れや返済遅延を起こした会社はありませんでした。
実は、2014年まではmaneoも融資先の事業者名を開示していました。
しかし、金融庁が融資先の名前を公開し、ソーシャルレンディングの募集を行うことが「個人が貸金業を行っていることに該当する」と判断し、融資先事業者の匿名化が行われたのです。
ある意味では、2014年まで情報開示が行われ、健全な状態でソーシャルレンディングは運営されていたとも言えるのです。
そして、2015年頃から高利回りを謳うソーシャルレンディング会社が登場したということは、匿名化が進んだからこそ匿名化を利用して資金の募集を行うことが狙いだったとも推測できます。
今振り返れば、この時の金融庁の指導に現在の数々の問題の原因が含まれていたとも考えられます。
2013年~2016年頃の主なソーシャルレンディング会社
2013年から2016年の時期に運営を行っていたソーシャルレンディング会社、そして運営を開始したソーシャルレンディング会社を振り返ってみましょう。
ソーシャルレンディング会社①:maneo
maneoは、この時期でもすでに業界の中で大きな存在感を発揮し、多くのソーシャルレンディング案件を提供していました。
また、この時期は個人向けの融資も行なっていましたが、貸し倒れが発生しており、ほどなくして個人向け案件の運用を停止しています。
ソーシャルレンディング会社②:SBI ソーシャルレンディング
SBIソーシャルレンディングも、この時期は個人向けの融資案件が見られました。
しかし、maneoと同様に貸し倒れが発生したことで、個人向け融資は取り扱いを止めています。
SBIソーシャルレンディングにおいて大きな飛躍の要因となったのは、2013年の玄海インベストメントアドバイザーとの提携です。
玄海インベストメントアドバイザーは太陽光発電案件などを多く運営している事業会社です。
この会社が積極的にSBIを通じて資金を募集するようになり、案件の供給が安定。投資家に継続的に利用されるようになっていたのです。
ソーシャルレンディング会社③:Crowd Bank(クラウドバンク)
クラウドバンクは、2014年からソーシャルレンディングサイトの運営を開始しました。
2019年11月現在では業界第3位につけていますが、2015年には行政処分を受けるなど、当初は運営に不備があったことがわかります。
その後は運営が徐々に安定し、業界内でも大きな存在感を持つほどの会社になりました。
ソーシャルレンディング会社④:AQUSH
AQUSHは2013年以前から、ソーシャルレンディングサイトを運営していた会社です。
個人向け融資専門の会社であり、当初は投資家からも注目を集めていました。
しかし、他のソーシャルレンディング会社の例に漏れず、個人間融資は貸し倒れが多く発生。
2019年11月末現在では、AQUSHはソーシャルレンディングサービスを停止しています。
ソーシャルレンディング会社⑤:Crowd Credit(クラウドクレジット)
クラウドクレジットは、2014年のサイト運営開始当初から「海外案件を専門に取り扱うソーシャルレンディング会社」として運営方針を変えていません。
立ち上げ後の間もない時期からベンチャーキャピタルなどの出資を受けることに成功しています。
創業社長の杉山智行氏は、現在もクラウドクレジットの社長を務めており、安定した経営体制を今日まで維持しています。
ソーシャルレンディング会社⑥:ラッキーバンク
ラッキーバンクは不動産案件専門のソーシャルレンディング会社として、2014年から営業を開始しました。
この時期は特に問題が起こることもなく、10パーセントの利回りの案件を提供し、全案件に不動産担保を設定という担保力の高さもあって、会員数を伸ばすことに成功しています。
ソーシャルレンディング会社⑦:LCレンディング
LCレンディングは、この時期にmaneoのシステムを利用したソーシャルレンディングサイトを開始しています。
2019年11月現在、貸し倒れなど発生したことありませんが、ほぼ新規案件の取り扱いを停止しています。
ソーシャルレンディング会社⑧:ガイアファンディング
ガイアファンディングは、アメリカの不動産案件を取り扱うソーシャルレンディング会社として2015年に運営を開始しました。
また、maneoのシステムを利用したソーシャルレンディング会社です。
自社で第二種金融商品登録を行わず、maneoのシステムを利用することで資金募集、そして自社で貸金業登録を行い貸付を行っていました。
2019年11月末時点では運営停止状態にあります。
ソーシャルレンディング会社⑨:さくらソーシャルレンディング
さくらソーシャルレンディングも、2015年運営開始です。
maneoのシステムを利用していた点もガイアファンディングと同様です。
さくらソーシャルレンディングはmaneoのシステムを利用していた会社名ながら、返済遅延は発生させたことがありません。
2019年11月現在、SAMURAI(サムライ)と業務提携を行い、SAMURAIを通じて資金調達を行っています。
ソーシャルレンディング会社⑩:グリーンインフラレンディング
グリーンインフラレンディングは、太陽光やバイオマスなど、自然由来エネルギー案件専門の事業を扱うソーシャルレンディング会社として、2015年から営業を開始しました。
2018年7月までの約3年間で、累計200億円もの資金を集めることに成功したソーシャルレンディング会社でした。
その利回りは最低でも10パーセント、高いものでは13パーセントという、今となって考えると非常識とも言える平均利回りの高さを投資家に提供していたのです。
maneoのシステムを利用していた会社の中では最も早く返済遅延を発生させ、maneoが行政処分を受ける発端になったともいえる会社です。
2019年11月現在、maneoとグリーンインフラレンディングは投資家から訴訟を受け、裁判を続けています。
- 【2019/4/24裁判レポ】注目のmaneo(マネオ)・グリーンインフラレンディング初公判の結果
ソーシャルレンディング会社⑪:みんなのクレジット
みんなのクレジットは、2016年に営業を開始しました。
当初から10パーセント近い高利回り、そしてそれに加えて5パーセント近い利回りがプラスされるキャッシュバックキャンペーンを積極的に展開していました。
投資家にとって魅力的な案件を提供することで、多くの投資家を短期間で集めました。
しかし2017年2月、みんなのクレジットは金融庁から行政処分を受けました。
その他、投資家に提示していた用途以外に資金を流用していたり、社長の個人的な借金返済に資金を流用していたなど、数々の問題が明らかになりました。
営業開始からわずか1年足らずで行政処分を受けソーシャルレンディング案件の募集を停止しました。
2013年~2016年頃のソーシャルレンディングの特徴
では、この2013年から2016年のソーシャルレンディング会社にはどのような特徴があったか振り返ってみましょう。
特徴①:maneoのシステムを利用する会社の増加
maneoがソーシャルレンディングのプラットフォームを数々のソーシャルレンディング会社に提供したことにより、この時期一気にソーシャルレンディング会社の数が増えています。
投資家からは「maneo ファミリー」と呼ばれるようになり、「ソーシャルレンディング業界のトップ企業である maneo がシステムの構築や案件の審査を行っているから安全だろう」という、いま考えると根拠のない安全神話が生まれていました。
特徴②:担保や安全性を謳う会社の増加
maneoのシステムを利用していない会社でも、投資家からの信頼を集めるために、不動産担保や代表者連帯保証など、安全性の訴求が始まったのもこの時期です。
ラッキーバンクは全案件に都心一等地の不動産担保を設定するという謳い文句で、投資家の信頼を買うことに成功しました。
しかし、結局のところ安全性の高い担保が設定されていないかったことは、ソーシャルレンディング投資家の皆さんならご存知のとおりです。
まとめ
2013年から2016年にかけ、ソーシャルレンディング会社が複数登場し業界が一気に拡大していく時期であったと言えます。
しかし、それと同時に後の問題の原因となるソーシャルレンディング会社もこの時期に登場していました。
他社との差別化を図るため、問題の種を抱えながら営業を行うソーシャルレンディング会社の増加など、ソーシャルレンディング会社戦国時代がスタートしていたのです。
また、金融庁の「匿名化」の方針が後々の問題を起こす原因になったとも言えます。
そう考えると、健全な投資にするための匿名化が実際には数百億円規模の問題の原因になるというなんとも皮肉な事態が起きていたとも考えられるのです。
クラウドアンサー編集部では、ソーシャルレンディングの変遷について独自の見解で分析しています。
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