2019年も残すところわずかとなりました。
ソーシャルレンディング業界においては、2019年は「金融庁の融資先匿名化の解除」や「新規ソーシャルレンディングサイト」の登場など、さまざまな出来事があった激動の1年となりました。
では、この1年を振り返ってみましょう。
目次
- 2019年のソーシャルレンディング業界の動き・ニュース
- 1月:株式会社クラウドポートが「Funds」の営業を開始
- 3月:金融庁が匿名化解除の方針を発表
- 3月:maneoマーケット株式会社社長「瀧本憲司氏」退任
- 7月:新規ソーシャルレンディングサイト「COOL」の運営がスタート
- 7月:SBIソーシャルレンディングの累計募集実績が1,000億円を突破
- 7月:「maneo」および「maneo」のシステムを利用していた会社で案件募集が停止
- 8月:クラウドバンクが地上波でTVCMを放送
- 9月:maneoマーケット株式会社の株式の約85%をNLHD株式会社が取得
- 9月:CAMPFIRE Ownersが運営を開始
- 10月:ZUUがCOOLの株式を取得
- 12月:さくらソーシャルレンディングがSAMURAI証券に事業を譲渡
- 金融庁による融資先情報開示の姿勢とその背景
- 融資先の名称開示で変わったこと
- ソーシャルレンディング案件の傾向
- 2020年のソーシャルレンディング業界動向予想
- まとめ
2019年のソーシャルレンディング業界の動き・ニュース
ソーシャルレンディング業界において、2019年にはどのような出来事があったのでしょうか?
まずは、時系列でまとめてみました。
このタイムテーブルに沿いながら内容について解説していきましょう。
月 | 出来事 |
---|---|
1月 | 株式会社クラウドポートが「Funds」の営業を開始 |
3月 | 金融庁が「匿名化解除」方針を発表 |
3月 | maneoマーケット株式会社の瀧本憲司社長退任 |
7月 | 新規ソーシャルレンディングサイト「COOL」の運営がスタート |
7月 | 「SBIソーシャルレンディング」の累計募集実績が1000億円を突破 |
7月 | maneoマーケットおよび「maneo」のシステムを利用していた会社で案件募集停止 |
8月 | 「クラウドバンク」が地上波でテレビCM放送 |
9月 | maneoマーケット株式会社の株式約85%をNLHD株式会社が取得 |
9月 | 「CAMPFIRE Owners」の運営が開始 |
10月 | 株式会社ZUUがCOOL SERVICE株式会社の株式を取得 |
12月 | さくらソーシャルレンディングがSAMURAI証券株式会社に事業譲渡 |
1月:株式会社クラウドポートが「Funds」の営業を開始
株式会社クラウドポートが、新規ソーシャルレンディングサイト「Funds(ファンズ)」の運営を開始しました。
運営開始日には多数のメディアを招いて大々的にセレモニーを実施し、大きな反響を獲得しました。
株式会社クラウドポートは、元々はソーシャルレンディングメディア事業を行っていた会社ですが、Fundsを立ち上げることによって金融サービスに直接参入しました。
また、従来のソーシャルレンディングサイトとは異なる融資スキームを構築するなど、新たなサービスの構築に取り組んでいます。
3月:金融庁が匿名化解除の方針を発表
金融庁財務局は、ソーシャルレンディング各社に対して融資先の匿名化を解除する方針を打ち出しました。
この匿名化解除方針により、ソーシャルレンディング各社の任意の上で融資先企業名を公開することが可能になりました。
3月:maneoマーケット株式会社社長「瀧本憲司氏」退任
maneoマーケット株式会社は、2018年に金融庁財務局から行政処分を受けていました。
さらに、maneoマーケット株式会社のシステムを利用していた複数のソーシャルレンディング会社で大規模な返済遅延が発生。
そういった処分や問題を受け株式会社maneoマーケットの二代目社長である瀧本憲司氏は社長を退任。
後任として足立義夫氏が社長に就任しました。
7月:新規ソーシャルレンディングサイト「COOL」の運営がスタート
在日外国人経営者による日本企業への融資案件を専門としたソーシャルレンディングサイトの「COOL」が2019年7月に運営開始しました。
7月:SBIソーシャルレンディングの累計募集実績が1,000億円を突破
「SBIソーシャルレンディング」の累計募集金額が1,000億円を突破しました。
また、2018年度の国内ソーシャルレンディング市場に置いて、同社の募集金額が最高額を達成したことを発表しました。
7月:「maneo」および「maneo」のシステムを利用していた会社で案件募集が停止
maneoマーケット株式会社およびmaneoマーケット株式会社のシステムを利用していたソーシャルレンディング会社が、案件の募集を停止しました。
2019年12月末現在においても、案件の募集を再開していません。
8月:クラウドバンクが地上波でTVCMを放送
「クラウドバンク」が、ソーシャルレンディング業界において初となる地上波テレビCMの放送を開始しました。
CMには女優の成海璃子さんを起用しています。
9月:maneoマーケット株式会社の株式の約85%をNLHD株式会社が取得
maneoマーケット株式会社の株式の約85パーセントをNLHD株式会社が取得しました。
maneoマーケット株式会社の元社長である瀧本憲司氏が保有していた同社株式の大半をNLHD株式会社に売却したため、maneoマーケット株式会社がNLHD株式会社の傘下に入りました。
それに伴って経営陣も刷新され、2019年10月に佐藤友彦氏が社長に就任しました。
9月:CAMPFIRE Ownersが運営を開始
購入型クラウドファンディングサービスとして有名な株式会社CAMPFIRE。
その株式会社CAMPFIREの関連会社である株式会社CAMPFIRE SOCIAL CAPITALが、ソーシャルレンディングサイト「CAMPFIRE Owners」の運営を開始しました。
10月:ZUUがCOOLの株式を取得
2019年7月にソーシャルレンディングサイトの運営を開始した「COOL」。
わずか3ヶ月後に、「COOL」の運営元である株式会社 COOL SERVICESの株式を、メディア事業などで知られる株式会社ZUUが取得しました。
そして、株式会社ZUUがソーシャルレンディングサイトの運営に乗り出すことも発表されました。
12月:さくらソーシャルレンディングがSAMURAI証券に事業を譲渡
maneoマーケット株式会社のシステムを利用してソーシャルレンディングサイトの運営を行っていた「さくらソーシャルレンディング」。
運営元のさくらソーシャルレンディング株式会社は、SAMURAI証券株式会社に事業を譲渡しました。
さくらソーシャルレンディングは、2020年1月から「SAMURAI FUND」という名前に変わり、SAMURAI証券株式会社が引き続きソーシャルレンディングサイトを運営する予定です。
金融庁による融資先情報開示の姿勢とその背景
2019年におけるソーシャルレンディング業界の最大のニュースと言えば、なんといっても金融庁が融資先の匿名化を解除する方針を打ち出したことでしょう。
背景には、2017年から2018年の2年間にかけて数々のソーシャルレンディング会社に下された行政処分が第一に挙げられます。
行政処分を受けたソーシャルレンディング会社
2017年から2018年にかけて行政処分を受けたソーシャルレンディング会社は、次のとおりです。
- みんなのクレジット
- ラッキーバンク
- maneoマーケット
- トラストレンディング
融資先が非公開であることを悪用したこれらの会社は、
- 関連会社や親会社に限定した融資を行ったこと
- 投資家に公開した用途とは別に融資金を流用したこと
などについて、金融庁の指摘を受けました。
さらには、設定した担保が独自の査定に基づいたもので客観性や妥当性がなく、加えて査定精度の低さが明るみになりました。
「みんなのクレジット」と「ラッキーバンク」は、担保や債権を売却して投資家に返済する動きを見せましたが、「みんなのクレジット」は募集金額の3パーセント、ラッキーバンクは募集金額の30パーセントほどの返済に留まっています。
大規模な返済遅延を発生させたソーシャルレンディング会社
上記に挙げた4社だけではなく、maneoマーケットを利用して案件の募集を行っていたソーシャルレンディング会社でも、莫大な返済遅延を出しました。
- グリーンインフラレンディング
- ガイアファンディング
- キャッシュフローファイナンス
- クラウドリース
特に、「グリーンインフラレンディング」は、120億円以上の返済遅延を発生させています。
また、NHKのニュースで取り上げられたことも、大きな反響を呼びました。
金融庁の開示方針の内容
融資先の実名を公開することは、貸金業登録を行っていない個人が融資先に直接返済を迫り、あるいは、融資する恐れがあるため、これを禁ずる
金融庁は、2014年から融資先の公開を禁止し匿名化を関係各社に義務付けました。
しかし、個人が直接請求することや返済を迫ることを禁止する条項を盛り込んだ上で、2019年3月から融資先の匿名化の解除を許可したのです。
融資先の名称開示で変わったこと
それでは、実際に融資先の名称を公開したことで、ソーシャルレンディング投資の何が変わったのでしょうか?
一つひとつ確認してみましょう。
変わったこと①:資本や人的なつながりがわかる
融資先の匿名化は、ソーシャルレンディング会社と融資先が癒着するといったリスクがつきまといました。
しかし、融資先の名称が公開されたことで、投資家が融資先とソーシャルレンディング会社の関係性を把握できるようになったのです。
例えば、ラッキーバンクでは集めた資金のうち9割以上が親族が経営する不動産会社に融資されていました。
事実上、親会社はラッキーバンクを資金調達部門として利用していたのです。
しかし、子会社のラッキーバンクは立場上、投資家から集めた資金の返済を強硬に親会社に迫ることができません。
その結果、投資家には投資金の約3割しか返済されませんでした。
融資先がわかれば、ソーシャルレンディング会社との人的・資本的な関係が把握できるようになるため、ラッキーバンクのような事態は起こりにくくなります。
融資先の匿名化の解除の大きな意義の一つになりました。
変わったこと②:財務状況がわかる
融資先の実名が公開されれば、財務状況の把握が容易になります。
ソーシャルレンディング各社は融資に関して厳正な審査を行うとしていましたが、審査の具体的な内容は明らかにされませんでした。
最悪なケースとして、倒産間近の企業に融資することもあったのです。
しかし、融資先が明らかになれば、投資家が財務状況を事前に調べることが可能になり、財務状況の悪さから投資を見合わせるといった適切な判断が下せるようになります。
すなわち、危険な融資先を回避できるのです。
変わったこと③:問題のある融資先を見抜きやすくなる
上記2点を踏まえることで、数々の問題を孕む融資先が一目で見抜けるようになります。
ソーシャルレンディング会社と人的なつながりがある融資先、投資家から資金を調達した直後に計画的に倒産して姿をくらますような融資先は、まず現れなくなるでしょう。
そういった事例を防ぐ意味で、金融庁の匿名化の解除は大きな意義をもたらします。
そして、ソーシャルレンディングが投資手法として安全であり、多くの人に受け入れられるだけの素地を築くには、融資先の匿名化の解除は必須と言えます。
ソーシャルレンディング案件の傾向
2019年のソーシャルレンディング案件の傾向がどうなったかについても、改めて確認してみましょう。
傾向①:利回りは低下気味
ソーシャルレンディングの案件の利回りは、全体的に「低下傾向」と言えます。
ただし、ソーシャルレンディング各社が自社の利回りを下げているわけではありません。
利回り10パーセントを超えるような利回りを提供していたソーシャルレンディング会社が営業停止した結果、業界全体の平均的な利回りが低下しているのです。
「SBIソーシャルレンディング」や「クラウドバンク」の案件は、利回りが5パーセントから7パーセントと大きく変わりません。
その他のソーシャルレンディング会社も同じ水準にあり、利回りで10パーセントを超えるのは「LENDEX」の無担保案件くらいです。
不動産担保を設定した「LENDEX」の案件の利回りは6パーセントから8パーセント、無担保案件の利回りは10パーセントから12パーセントです。
一方で、外貨建ての案件も増えており、そういった案件に投資すれば為替変動に伴う差益で高い利回りを得ることも可能です。
傾向②:安全性を求める投資家が増加
単純に利回りを追求するよりも、安全性を求める投資家が増加しています。
利回りの高い案件を提供していたソーシャルレンディングが相次いで事実上の運営停止状態に陥ったため、投資のあり方に大きな影響を与えました。
例えば、融資先の実名を公開する「Funds」などに、投資家が集まる傾向が見られます。
「Funds」では、伊藤忠商事株式会社といったの有名企業や上場企業の融資案件を投資家に提供することで、融資先の知名度を安全性の担保に据えています。
「どのような会社に投資してどのような事業に使われるのか」また「事業の収益性はどうなっているのか」といった情報を提示するソーシャルレンディング会社が増加しました。
そういったこともあり、投資家も情報を追いながら自己判断の上で投資の妥当性を見抜いていくようになったのです。
2020年のソーシャルレンディング業界動向予想
2019年を受けて、2020年のソーシャルレンディング業界では「融資先や担保の情報開示の進展」が予想されます。
ソーシャルレンディングがより多くの人に親しまれる投資手法になるには、しっかりと情報を開示した上でリスクとリターンを投資家が把握できるようにすることが重要です。
また、案件を研究した上で投資家が投資対象を決定できる体制の構築が必要でしょう。
そして、「Funds」のように投資家保護の取り組みを重視した上で、利回りという金銭収入以外に融資先のサービスが利用できる特典付きの案件が増えるでしょう。
志向として、ソーシャルレンディング会社と投資家、その双方ともに今望んでいることは、利回りよりも投資の安全性でしょう。
なお、2020年のソーシャルレンディング業界の予測はこちらでより詳しく触れています。
ソーシャルレンディング投資を今後加速させたい方は、ぜひチェックしてください!
まとめ
2019年は、3つのソーシャルレンディングサイトが運営を開始した年となりました。
その中でも、「Funds」は独自性の高い投資スキームを開発し、投資家から大きな支持を集めています。
そして、具体的な内容は明らかにされていませんが、大手金融メディアZUUが運営するソーシャルレンディングサイトが2020年に立ち上げられる予定です。
金融庁の匿名化の解除によって、ソーシャルレンディング投資の健全化が進む中、「大手メディアの運営元がソーシャルレンディングサービスに参入する」ことは、ソーシャルレンディング業界の内外から注目を集めています。
ソーシャルレンディング業界にとっての2019年は、変動期または過渡期に相当する1年だったと言えます。
2020年は飛躍の1年になることを期待したいものです。
なお、クラウドアンサー編集部では、
ソーシャルレンディングの変遷について独自の見解で分析しています。
他の記事もオリジナルの目線で分析しているので、ぜひチェックしてください。
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